「昨年はAzureの普及啓蒙の年だったが、今年は第二ステップ。技術者支援活動を『10倍』にする」。マイクロソフトで技術者支援事業を統括する大場章弘氏は、こう意気込む。基本方針はオンラインでの情報発信とリアルの大規模イベントの充実だ。オンラインでは動画ストリーミングを拡充。来年2月の新社屋には、専用の撮影スタジオを設ける。イベントでは8月に開催する「Tech・Ed」の内容を中・上級者向けへと、思い切って厚くする。

(聞き手は玉置亮太=日経コンピュータ



「Windows Azure」をはじめとするクラウドサービス向けの技術者支援を、今夏以降どのように強化するか。

マイクロソフト 執行役 デベロッパー&プラットフォーム統括本部長 大場章弘氏(写真=中島正之)
マイクロソフト 執行役 デベロッパー&プラットフォーム統括本部長 大場章弘氏(写真=中島正之)
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 当社はこの7月から、新会計年度(2011年度)に入った。6月まで主に実施してきたのは、Azureの普及啓蒙活動。認知度の向上、Azureと関連技術に対する基本的な理解を広めることに重点を置いた。

 これを第一ステップとすると、7月以降は第二ステップだ。本格的な事業展開の段階に入った。まず日本法人全体で、クラウド専任の担当者を合計100人任命した。製品マーケティング部門、営業部門、大企業向けサポート部門など、あらゆる事業部門へクラウド専任の人員を配置した。既存のソフトウエア製品と同等、あるいはそれ以上の重み付けで、Azureなどクラウドサービスを推進していく。

 事業展開に入ったのに伴い、私が担当する技術者支援活動の内容も強化する。一人でも多くの技術者に適切な情報を届ける。感覚的には今までの3倍、5倍、10倍くらいの勢いでAzureとそれを取り巻くクラウドの情報を届けられる体制を作っていく。

具体的な活動は。

 大きく二つに分かれる。まずはオンラインでの情報提供を充実させることだ。

 TechNetやMSDNで発信していく技術情報については、ここ1年、特に日本語での情報を増やすことに力を入れてきた。これももちろん継続する。だいたい1年で1万ページ、通常の日本語化作業に加えて、日本独自の取り組みとして実施している。

 今期は、クラウドの技術情報の拡充に全力を投入する。製品やサービスの種類によって違うが、それぞれのクラウドサービスに応じた技術情報を強化していく。PaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)であるAzureの場合はシステム開発に関する情報が多くなるし、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)の「BPOS」は導入や活用に焦点を当てた情報を増やす。

 特にAzureは情報システム開発の土台となるサービス。従ってAzureのアーキテクチャをしっかり理解してもらう必要がある。どういうワークロード(業務処理)に適しているかや、オンプレミス(自社内設置)との違い、スケールアウトの方式などが判断できるよう、設計のガイドライン、ノウハウを広く提供していきたい。

 技術情報に加えて、ここ1年ほど「コードレシピ」と呼ぶサンプルコードの拡充に力を入れている。現在は400本ほどをWebで公開している。これを向こう2年で2000本に増やす。

 オンラインの情報提供では、動画ストリーミング技術を使ったコンテンツ配信に、もっと力を入れる。大規模なイベントを中継したり、オフラインの情報をデジタル化して提供したり、といったことだ。

 来年2月に移転する東京・品川の新本社オフィス内に、ビデオ撮影のスタジオを設ける。イベントの録画だけでなく、重要なコンテンツをWebキャストで配信していく。フランス法人のオフィスにはものすごく立派な撮影スタジオがあって、膨大なビデオコンテンツを作成している。日本でも見習いたいと考えている。セミナーの生中継などもやってみたい。

 当社の技術情報Webサイト「MSDN」や「TechNet」の認知度を、国ごとに調べている。日本の各サイトの認知度は、フランスやドイツといった国に比べて半分くらいしかない。理由はいろいろ考えられるが、やはり情報の充実度や満足度が問題なのだろう。例えばイベントの一部をWebのストリーミングで公開するなどの取り組みは、これまでも実施していたが、結果として不十分だった。もっと広範囲に露出して、アクセスしてもらう取り組みが足りなかった。

技術者支援に関する、もう一つの取り組みとは。

 8月に日本で開催する「Tech・Ed」だ。今年はクラウドを最大のテーマに据えるとともに、イベント自体の位置付けや水準を見直した。

 エントリーレベルのセッションをなくして、すべて中級以上の中身の濃いものだけにした。当社はセッションのレベルを5段階に分類しているのだが、下から二つをなくした。昔は「○○概要」といったセッションも多く、イベント全体のセッションの水準に幅があった。今回は技術者の皆さんからのフィードバックを基に、入門レベルのセッションはWebキャストだけで流すことにした。リアルイベントのセッションは、技術の深い部分を理解してもらえるよう中身を濃くした。

 とは言え、いきなり中級以上に参加してくださいといっても厳しいと思うので、事前に見ていただきたい情報を整理してWebサイトで公開している。ぜひ事前に見てから参加してほしい。当日のセッションを、よりスムーズに理解してもらえると思う。

 基調講演の内容も見直した。過去は製品説明が並んでいたという反省点がある。これも改めて、単なる製品説明ではなく、マイクロソフトの戦略や考え方をしっかり理解してもらえるような内容にしていく。あくまでストーリーが先にあって、その中で必要な製品や技術を説明する方針を徹底するつもりだ。

 今回はクラウドがテーマなので、すでにマイクロソフトのクラウドを使っているお客様も登壇してもらう。

 例年、Tech・Edは今使える製品にフォーカスしていたが、今年は少し先の技術、製品もキーノートで紹介したい。顧客での導入事例や今年後半に提供を予定している新機能などについても紹介する。そして来年から再来年くらいのマイクロソフト技術の方向性を、クラウドという視点で感じてもらえるようにする。例年は、最後に挙げた「この先」の部分がほとんどなかった。今年も今の製品、ここ半年の具体的な製品の話がメインなのだが、来年から再来年のエッセンスも盛り込む。

 Tech・Edの規模は2000人くらい。本当はもっと規模を大きくしたい。現状の参加者2000人というのは、会場(パシフィコ横浜)の収容人数の制約のためだ。将来的には3000人、5000人と、大きくしていきたい。

 Azureに関しては、大規模なハンズオン(体験学習)設備を設ける。まずTech・Edに用意するが、以後は本社オフィスに常備する。社内のセミナールームを使って、1週間に1度くらいのペースで開いていく。のべ数千人規模に参加してもらえるようにする。

非マイクロソフトの技術や言語の技術者層に対するアプローチは強化しなくていいのか。

 過去のマイクロソフトにとっては不得意な分野だった。ここ1年はオープンソース、特にPHPの開発者に対して、コミュニティへの支援やイベントへの参加などを意識的に増やしてきた。Azureが持つオープンな側面、オープンソースに対する相互接続性はポジティブにとらえてもらっていると思う。PHPのプログラムをAzure上で動かすためのガイドラインを公開したり、Azureの開発環境としてEclipseを使えるようにした。

とは言え、オープンソースコミュニティでのAzureの認知度は、まだほとんどないのでは。

 もちろんまだまだ十分とは考えていない。今期からは私の配下に、専任の部署を作った。Webやオープンソースの技術者コミュニティへの支援を担う部署だ。ここを中心に、今後もアプローチを続ける。