イーサネットスイッチ市場は、すでに大手ベンダーによる飽和状態になっており、新規ベンダーが参入する余地は少ないように思われてきた。だが、データセンター向けのハイエンドスイッチに的を絞り、高信頼・大容量・低遅延を売りにすることで金融機関などの顧客の獲得に成功しつつあるベンダーが現われた。サン・マイクロシステムズの創業者であるアンディ・ベクトルシャイム氏が起業した米アリスタネットワークスである。同社のイーサネットスイッチ製品は、他社とは何が違うのか。ベクトルシャイム氏に聞いた。

(聞き手は高橋 健太郎=日経コミュニケーション



米アリスタネットワークスの会長兼製品開発統括最高責任者アンディ・ベクトルシャイム氏
米アリスタネットワークスの会長兼製品開発統括最高責任者アンディ・ベクトルシャイム氏

大手のスイッチ・メーカーがひしめく中、なぜ新たにスイッチ・メーカーを創業しようと考えたのか。その背景は何か?

 この数年、業界全体のトレンドはクラウドコンピューティングに向かっている。その流れの中で、特にデータセンターの大規模化が傾向として見られる。

 例えば、サーバーの台数も10万台以上というデータセンターが続々と登場している。これはコンシューマに対して提供するサービスが大容量化しているからだ。さらに、パソコン以外のモバイルデバイスからのアクセスも急増していることも理由の一つだろう。

 クラウドコンピューティングを支えるネットワークを我々は「クラウドネットワーキング」と称している。クラウドネットワーキングには、より大きなスループットと拡張性が求められている。これは従来型の企業向けデータセンターのネットワークよりも要求される水準が高い。

 クラウドネットワーキングは、まるで空気中の酸素のようなものだ。酸素は生きていくのに不可欠だが、常にその存在を気にしているわけではない。酸素が欠乏してはじめてその重要さに気付く。クラウドネットワーキングも同じで、うまく通信できているときには気にもかけないが、何らかの障害が起こったときにその存在を意識する。

 我々の戦略は、そうしたクラウドネットワーキングに向けて、最もスケーラブルで最も信頼性の高いスイッチを提供することだ。我々の製品を使えば、絶対にダウンすることのないネットワークを構築できる。

 こうした製品を実現するため、我々は新しいスイッチ用OSを開発した。これを「EOS」と名付けている。このEOSは、今市場に存在する他のどのスイッチOSよりも、堅牢なアーキテクチャを持っていると自負している。例えば、稼働中にソフトウエアをアップデートできる「インサービス・ソフトウエアアップデート」(ISSU)が可能である。そのときにも、ネットワークの運用には影響を与えない。

 4月に発表した新製品「Arista 7500シリーズ」は、10ギガビットイーサネットのポートを384個備えている。きょう体内のファブリックのスループットは10Tビット/秒だ。ラック内のスイッチを経由して、1万台のサーバーを収容できる。サーバー1台当たりに割り当てられる帯域は1Gビット/秒になる。

 これらはフラットなレイヤー2ネットワークで収容できるため、稼働中の仮想マシンを他の物理マシンに移動する米ヴイエムウェア社の「VMotion」を使う場合に最適だ。クラウドネットワーキング対応の仮想化されたデータセンターに理想的な環境と言える。

ベクトルシャイム氏は以前にも、「グラナイトシステムズ」という会社を立ち上げた。今回の創業と比較すると、状況はどのように変化したのか?

 グラナイトシステムズは、私が1995年に設立したギガビットイーサネット向けのASIC開発会社だ。このグラナイトシステムズをシスコが買収し、その技術を基にして大成功したスイッチ製品「Catalyst4500」が作られた。

 今回のアリスタネットワークスは、我々自身で独自のチップをデザインしているわけではない。その代わり、市場で手に入る最も良い商用チップを購入している。現状では、我々がチップを作るよりも、市場にある市販のチップの方が性能が高いものを利用できるからだ。この場合に欠けるのが堅牢なスイッチ用のOSだ。だから我々はソフトウエアにフォーカスする。シスコなど他社の製品に比べ、良いスイッチOSを作ることに注力する。

15年前は独自のASICを作ったのに、今回は商用チップの方がいいと判断した状況の変化を詳しく説明してほしい。

 例えば、シスコなどの通信機器メーカーは、自社でASICを設計し、ネットリスト(LSIの回路の接続を示した設計図)を作る。そのネットリストに基づいて、半導体メーカーが物理レイアウトを作り、さらにチップを製造する。

 ただし、通信機器メーカーによるASICの設計フローでは、非常に高い密度でチップを設計できない、あるいは非常に高い周波数を達成できないという限界がある。例えば、10ギガビットイーサネット(10GbE)のマクロ(特定機能を実現する回路ブロック)は、一般的なASICの場合でクロックが312MHz、データパスが32ビット幅という仕様になる。

 これに対し、半導体専業メーカーのフルカスタムシリコンならば、クロックを1.25GHzまで上げて、データパスを8ビット幅に狭くできる。これにより、チップのトランジスタ数を4分の1に減らせる。ということは、同じチップ面積ならポート密度を4倍に高められることになる。スイッチのコンポーネントを減らせるし、消費電力や製造コストの低減にもつながる。

 通信機器メーカーが設計するASICよりも、半導体専業メーカーが設計するチップの方が高性能という傾向は、通信機器に搭載されるチップの高速化が進んで、トランジスタ数が増えてくるに従って強まってきた。