原口ビジョンについて聞きたい。ビジョンには,2020年までに国内の全4900万世帯にブロードバンドを広げるとある。ソフトバンクとして,何か影響がありそうか。
原口ビジョンは,将来の日本をどうしていくのかという成長戦略にかかわってくる。デジタルデバイドの解消,4900万世帯のブロードバンド化などの目標が掲げられていて,地方自治的な面とICT的な面のバランスがとれている。我々が目標としていたものに非常に近いイメージだ。
まだきちんと分析しているわけではないが,ビジョンとして全体の方向性を示すようなことは,今までにはなかったこと。それを実現するためにどうすればよいか,これからの議論になる。
2020年に4900万世帯のブロードバンド化というビジョンを進めるうえで,重要なことは何か。
光ファイバなどのインフラを,我々がどれだけオープンな形で公正に使えるのかだ。そのために,今後,意見を伝えていかなければならないだろう。
「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」でも,今後の通信政策についての議論が始まった。

ICTタスクフォースでは,今まで議論されてこなかったことが議論されつつある。
これまで通信業界の規制というとNTT組織問題が前面に出ていた。しかし,原口ビジョンやICTタスクフォースの目標はそういったことではなく,ブロードバンドを広め,利活用を推進すること。そのためにどうしていったら良いかを業界全体で議論できると思っている。
12月にあったタスクフォース第1,第2部会の合同ヒアリングでは,NTTの組織について様々な発言があった。第1,第2部会は従来の政策のレビューと今後の政策を議論するところ。そこでの議論で,現状の問題点をあまり軽く扱ってはまずい。それで各社がNTT組織問題について意見を出した。
ただ,その上位概念として原口ビジョンがあるのなら,最終的に原口ビジョンを実現するにはどうしたら良いのかを議論していけばいいはずだ。
原口ビジョンの年限はかなり先だが,タスクフォースは1年くらいかけて議論し,途中でも決まったものから適用していくという考え方。せっかくの機会だから,じっくり議論してきちんと結論を出してほしいところだ。
具体的に,NTTはどうあるべきと考えているか。
サービスとネットワークの両方を持つ今のNTTの形は,ボトルネックを抱えているという意味で,やはり問題がある。明確に分けるべきだ。
設備管理部門と利用部門とで分かれていることにはなっているが,2009年末に騒ぎになった情報漏えい事件などからも分かるように,実はきちんと分かれて機能していないことは明らかになってきている。そういったことをはっきりさせないと,きちんとした競争環境はできない。
編集部注)NTT西日本から業務委託を受けているNTT西日本--兵庫が,他事業者のDSL利用情報や他事業者へ移行した番号ポータビリティ情報などの属性情報を販売代理店に提供していた(関連記事)。
これから4900万世帯にブロードバンドを広げていくうえで,光ファイバ網はインフラのインフラというような,必須のものになる。その部分での新たな付加価値提供は,今のNTTがやるべきなのか,それとも別の組織でやるべきなのか,十分に考える必要がある。
最後に,今後のネットワーク・インフラの展開について考えを聞かせてほしい。
地球環境のことなどを考えると,複数の通信事業者がそれぞれルーラルなところ(へき地)までエリアを広げていくことは,もはやあまり意味がない。ユーザーからも,「使えることが当たり前になった今,インフラを競争要因にして差別化を図るのは歪んでいるのではないか」といった声を聞くことがある。
その意味では,世界的にも広がってきているネットワーク・シェアリングの考え方が大事になっていくだろう。ローミングと言うと抵抗感があるようだが,いろいろな形でネットワーク・インフラをシェアし,コストも安くしていくのが我々の目指す姿だ。
兼 CTO 研究本部長 兼 渉外部担当
弓削 哲也(ゆげ・てつや)氏
(聞き手は,河井 保博=日経コミュニケーション編集長,取材日:2010年1月7日)