[前編]無線通信はまだ改善の余地あり,日本の周波数割り当ては公平でない

2009年12月に示された「原口ビジョン」(関連記事)。国内の全4900万世帯にブロードバンドを広げるとする。その実現に向けてポイントになるのが,巨大なインフラを持つNTTと,そのインフラを安く公正に使いたいとする他の通信事業者の間の競争政策や,無線ブロードバンド・サービスの進化を左右する周波数政策。今後の方向性についてソフトバンクテレコムの弓削専務に聞いた。

年初に米グーグル自身がAndroid端末「Nexus One」を発表するなど,通信業界がどんどん変化している。

 スマートフォンをはじめとする端末の充実で,通信サービスは今までの通信事業者主導のものから,ユーザー主導あるいはアプリケーション主導に変わりつつある。iPhone,iTunesのモデルはその一つ。Androidにも注目している。

 ソフトバンク・グループとしては,携帯でも固定ブロードバンドでも,オープンな環境にいろいろな形で関与して,ビジネスを広げていこうと思っている。

そういう環境に向かっていくとして,今後の課題は何か。

 固定回線は信頼性,料金ともに条件はかなりのレベルに達している。当面の課題は無線通信だろう。

 無線でも,通信速度やカバー・エリアの面では,インフラ整備が進んだ。ただユーザーの視点からすると,「いつでも,どこでも,すぐに使える」というユビキティの面では,まだ改善の余地が残っている。

 ユーザーにとっては,第3世代携帯電話,無線LAN,WiMAXなどの無線通信はもちろん,固定回線まで含めて,どのような通信メディアかを意識することなく,コグニティブでいろいろな仕組みを自在に使い分けられる方が便利だ。

 一方では,クラウド・コンピューティング型のサービスが増え,様々なユーザー・データがネットワーク側に置かれるようになる。この点からも,ユビキティはいっそう高まるだろう。

通信速度の面はどうか。

弓削 哲也(ゆげ・てつや)氏
写真:的野 弘路

 無線に関しては,今後の通信速度の向上も依然として課題だ。高速なサービスが充実してきたとはいえ,需要も伸びている。今は「大容量の回線をどんどん使いたい」と,ユーザーが手ぐすね引いて待っている状況だ。

 昨年12月に原口一博総務大臣が発表した「原口ビジョン」では,ICTの“利活用”をもっと進めるとしている。医療,電子政府,教育など様々な場面での活用が進めば,アクティブなユーザーが増えるし,ネットワークにはもっと高度な機能・仕組みが求められるようになっていくはずだ。

 そのときに必要とされる性能や機能を,どのように実現するかも今後のテーマだ。例えば無線周波数のホワイトスペースの活用などがその一つだ。1Gビット/秒の無線通信技術など,LTE(long term evolution)の次に来る技術についても,どこまでサービスとして提供していくのかを考えていく必要がある。

周波数については,地上デジタル放送への完全移行で空く700MHz帯,第2世代携帯電話の終了に伴う再編によって空く900MHz帯の再割り当て議論も始まった。

 世界的に見ると,基本的に周波数は各事業者に公平に割り当てられつつある。これに対して日本では,必ずしも公平とは言えない割り当てになっている。その是正という意味で,我々としては700M/900MHz帯は当然もらえるものと思っているし,そこを活用して新しいサービスを提供していきたいと考えている。

 どのようにして獲得していくか,戦略については明かせない。ただ,現状の問題点と必要性についてはいろいろと話をしていく。議論を重ねたうえで周波数を空けられたらいい。できるだけ電波を整理して使える領域を広げてもらいたい。

 ただ,無線周波数の配置には,日本特有の事情がある。700MHz帯と900MHz帯がかなり離れているし,かつ900MHz帯も二つに分かれている。ITS(高度道路交通システム)も孤立気味だ。ラジオ,MCA無線なども,それぞれに経緯があって,全部ひっくり返して他の周波数帯に移すのは難しいのが実情だ。

 最終的に今の配置のままということになるかもしれないが,それはそれでやむなし,というところだろう。周波数帯が分かれているから,機器開発コストがかかるなどの課題は残るが,周波数を新たに割り当ててもらえるなら致命的ではない。周波数がないことの方が致命的だ。

ソフトバンクテレコム 専務取締役専務執行役員
兼 CTO 研究本部長 兼 渉外部担当

弓削 哲也(ゆげ・てつや)氏
1951年生まれ。1974年に慶応義塾大学工学部電気工学科を卒業後,2002年に東北大学大学院博士課程を修了。工学博士。1974年,日本国有鉄道に入社。1987年には旧日本テレコムに入社。1989年,技術部無線課長。その後,サービス開発部長,技術部長,研究開発部長などを歴任し,2002年,専務執行役員 技術本部長(CTO)に就任。2007年に専務取締役専務執行役員 兼 CTO 研究本部長 兼 渉外部担当(現職)。ソフトバンクモバイルおよびソフトバンクBBの常務執行役員渉外本部長も務める。ソフトバンク・グループの渉外担当として,総務省の「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」などに参加する。

(聞き手は,河井 保博=日経コミュニケーション編集長,取材日:2010年1月7日)