ガートナー ジャパンのクライアント技術担当アナリスト2人に、2010年の注目点を聞いた。2人めはハードウエア分野担当の蒔田佳苗氏。機器の選択肢が多様化する中、蒔田氏は「パソコンの存在理由が問われている」と話す。今年後半にも登場するとみられるグーグルの「Chrome OS」搭載ネットブックについては、市場の広がりは限定的とみる。

(聞き手は、玉置亮太=日経コンピュータ

写真●ガートナー ジャパン 主席アナリストの蒔田 佳苗氏
写真●ガートナー ジャパン 主席アナリストの蒔田 佳苗氏

米国の大手コンピュータメーカーは、相次いでタブレットパソコンを発表した。ネットブックも伸長が著しい。こうした動きをどうみるか。

 現在は、パソコンの存在理由を問われる時期に来ていると言える。例えばクラウドが普及すれば、端末側に高い処理能力は必要ないという議論もある。

 安価なネットブックが普及した結果、主流であるA4ノートにも価格破壊が起きている。パソコンの使い方も、文章を作ったり編集したりといった用途以外での使い方がどんどん増えている。動画の閲覧やゲームが代表例だ。

 スマートフォンや、モバイル・インターネット・デバイス(MID)と呼ばれる小型機器、ゲーム機など、ネットに接続できる機器は非常に多様になった。パソコンが担ってきた役割が切り出されて、他の機器にシフトしつつある。

 パソコンの役割が相対的に下がっているように見えるかもしれないが、こうした流れは、実はパソコン自体にもプラスだ。メールやWebを使うだけなら携帯電話でも十分と考えるユーザーが増えているのは事実だが、複雑な作業をするためには、依然としてパソコンが向いている。パソコンへの需要は、引き続き残る。クライアント機器が多様化すれば、パソコンの利点がかえって際だつことにもなる。

適切なコンテンツやサービスを提供できるかがカギ

従来のパソコンとは異なるクライアント機器が普及するかどうかの決め手をどうみるか。

 現状のタブレットやネットブックは、メーカーが試行錯誤している状態にある。例えば電子書籍端末は、目的や用途がハッキリしている。ネットにつなぐのは、あくまでコンテンツをダウンロードするためで、搭載するべき機能や操作性も電子書籍を快適に読むことに特化したものを開発すればよい。

 これに対し、ネットに接続すること自体が目的の汎用的なデバイスは、サービスありきで製品化する必要がある。利用者に適切なコンテンツやサービスを提供できるかどうかが、普及のカギを握るだろう。

 iPhoneがヒットしたのは、既存のパソコンにはない利便性や楽しさを提供したからだ。インターネットに簡単につながり、簡単に操作でき、ネットサービスやiPhoneアプリケーションを探すこと自体を楽しい体験にした。機器に加えて、コンテンツやサービス、それらが集まる場を提供した。

 メーカーにとって、ハードウエア単体の利幅はどんどん薄くなっている。今や機器販売だけで利益を上げるのは難しい。メーカーもそれは認識しており、ネットを活用したサービスを組み合わせた製品開発が活発になるはずだ。それが結局は、利用者に受け入れられる方策にもなる。

デバイスの用途の「交通整理」はこれから

グーグルの「Chrome OS」搭載ネットブックのように、いわゆるパソコンの分野でもネット接続が必須の製品が登場する。

 Chrome OS搭載機など、ネットにつなぐことが半ば必須のネットブックは、Linuxを載せたネットブックと同じ状況になる可能性があるとみている。市場全体には広まらず、一部の利用者にとどまる可能性が高い。

 Linux搭載ネットブックが登場した当初は、我々も大きく広がるかもしれないと考えた。しかし実際に広がったのはWindows搭載機だった。Windows搭載機はLinux機よりも100ドルほど割高だ。それでも使い勝手やアプリケーションの充実度を考えると、多くの利用者が100ドル程度の価格差は受け入れた。同じことがChrome OS搭載機にも起きるのではないか。

 もちろんChrome OS搭載機には十分なメリットがある。数秒で起動してネットにつながるという特徴は、大きな利点だ。

 多様化したクライアント機器のハードとソフトの技術は、ある程度成熟したとみていいだろう。画面に触れて操作するタッチ方式は、iPhoneがヒットしたことで利用者に受け入れられることが証明された。Windows 7が標準で搭載したことで採用メーカーが増え、部材のコスト低下や機能の成熟もより進むだろう。

 今はまだデバイスの用途の「交通整理」が行われていない状態だ。機器の進化に加えて、OSもネットサービスを意識したものへと徐々に変わりつつある。

多様化するクライアント機器は、企業にどんなインパクトがあるか。

 企業はモバイル機器に高い関心を寄せている。選択肢が充実するのを知って、自社でもそろそろ何かに使えるのではないかと模索している。

 企業がまず目を向けているのが、特定業務向けの専用端末としての用途。例えば百貨店の売り場担当者が、iPhoneを接客やリアルタイムの在庫照会に使う、といったものだ。モバイル機器の活用を模索する動きは数年前からのものだが、徐々に成功例が出始めていると聞いている。

 今後は、特定の業務だけでなく企業の一般社員の間にも広がっていく。社員が個人で使ったり特定用途に取り入れたりする動きをきっかけに、徐々に浸透していくのではないか。