日本オラクルは2009年9月8日、ミドルウエア製品群の新版「Oracle Fusion Middleware 11g」の出荷を開始した。買収したBEAシステムズの製品とオラクル製品の“良いとこ取り”でアプリケーションサーバーなどを刷新。米オラクルのミドルウエア担当チーフアーキテクト兼SVP(シニア・バイスプレジデント)のテッド・ファレル氏は、「オラクルの次世代アプリケーション『Fusion Applications』の基盤を担う」と強調する。(聞き手は、森山 徹=日経コンピュータ)

オラクル製品とBEA製品を統合する際のポリシーは何か。
何よりも重視したのは、両社の製品の特徴を生かすことだ。例えば、BEAはしっかりしたモバイルプラットフォームを持っていた。両社で重複しないエリアでは、その機能を素直に取り込んだ。
重複したエリアについては、BEAの買収を2008年6月に完了して以来、明確な戦略を展開している。統合の方針によって三つのカテゴリに分けて進めている。
一つ目は、製品の機能を「戦略的」と判断した場合だ。その場合、戦略的なスタックごとに一つの製品を割り当てた。重複することはない。11gでは、WebLogic ServerやOracle BPEL Process Managerなどが該当する。
二つ目のカテゴリは「サポート&コンバージ」。戦略的な製品と重複しているが、既にしっかりとした顧客が付いている製品がここに入る。例えば、WebLogic PortalやOracle Service Busなどだ。
これら製品へのサービスは継続していくが、場合によっては戦略的製品に連携させていく。サポート&コンバージと呼ぶのは、このカテゴリに属する製品が持つベストな機能を今後、戦略的なスタックに取り込んでいくつもりだからだ。
三つ目は「メンテナンス」と呼ぶカテゴリだ。機能的に重複しているし、顧客ベースもそれほど大きくない製品が対象となる。顧客に対して有償サポートを提供するが、同時に戦略的製品への移行支援も行う。
11gにより、ミドルウエアは出そろったと見なしてよいのか。
Fusion Middleware 11gで、オラクル製品とBEA製品を完全に統合した。オラクル製品だけで構成する11gであれば、昨年の夏に出荷できる状態になっていた。しかしBEAの買収を待って、1年をかけてBEA製品を統合して出荷しようと決断した。長期的に使える製品を提供し、顧客に安心して使ってもらえるようにするためだ。
アプリケーションサーバーはどのような方針で刷新したのか。
ベースにしたのはBEAのWebLogic Serverだ。そこにOracle Containers for J2EE(OC4J)のセキュリティレイヤーなどを加えてまとめ上げた。PL/SQLで作ったアプリケーションをWebLogic Serverから呼び出せるようにもした。
分散メモリーソフト「Coherence」が注目を集めている。
Coherenceはメモリーにデータをキャッシュするための製品だ。アプリケーションサーバーと同じレイヤーでユーザーのプロファイルなどをキャッシュすることで、性能が上がる。耐障害性も高い。Coherenceでクラスタ構成を組み、データを分散配置しておけば、あるクラスタに障害が発生してもデータを保持できるからだ。
11gでCoherenceとアプリケーションサーバーの連携も強めた。また、64ビットに対応したことで、利用可能なメモリー容量が大幅に増えた。これに伴い、Coherenceでより大容量のデータが取り扱える。
Coherenceにキャッシュするデータは、バックエンドのデータベースから持ってきてもよいし、Webサービスからも取り込める。APIを用意しているので、どこからでもデータをメモリーに取り込んでCoherenceの管理下に置ける。
3000の機能強化点のほとんどがFusion Applications向け
リアルタイム・カスタマイゼーションについて教えてほしい。
アプリケーションのカスタマイズを容易にするための機能だ。オラクルが持っていた「メタデータサービシーズ(MDS)」という機能を、WebLogic Serverにポーティングした。MDSのコア部分は10gからあったが、内部でのみ使っていた。11gでユーザー向けに提供を始めた。
リアルタイム・カスタマイゼーションは、アプリケーションをベースと変更点に分けて管理する。ユーザーインタフェース、ビジネスルール、ビジネスプロセスが対象だ。これらをユーザーがカスタマイズすると、MDSがベースからの変更点を別ファイルとして記録していく。
MDSに問い合わせがあった際、MDSはアセンブリエンジンで各エディションのアプリケーションを組み立てる。アプリケーションをアップグレードするときはベースの部分を入れ替えるので、カスタマイズ部分が上書きされることがない。
次世代アプリケーション「Fusion Applications」に向けた機能強化点は何か。
Fusion Middleware 11gはFusion Applicationsの基盤となる。リアルタイム・カスタマイゼーションの利用例としても、Fusion Applicationsは筆頭に挙げられるだろう。オラクルに限らず、アプリケーションパッケージでは、アップグレードに時間やコストがかかるという話がよく出る。リアルタイム・カスタマイゼーションはこの課題を解決できる。
11gでは全体で3000に及ぶ機能を強化した。そのほとんどがFusion Applicationsにフォーカスしたものと言える。11gに寄せられた要望の75%から85%はFusion Applicationsのチームが出したものだ。
やろうと思えば、Fusion Applicationsは10gでも作れた。しかし11gを採用した方が、10gや他のミドルウエアプラットフォームを使うより3~4倍は開発生産性が高い。11gはアプリケーションの作成やメンテナンスを容易にすることに注力していると実感できるはずだ。