フィンランドのノキアシーメンスネットワークス(NSN)は,通信事業者から委託を受けネットワークの運用や管理を請け負う,ネットワーク・マネージド・サービスを展開している。3月には英国の携帯電話事業者オレンジUKとスペインのオレンジからネットワーク運用を受注した。NSNのアジア太平洋地域で,サービス事業を担当するヨルク・エルレマイヤー氏に,世界のそしてアジアのマネージド・サービスの状況を聞いた。

(聞き手は松本 敏明=日経コミュニケーション


世界的なマネージド・サービスの状況は。

フィンランドのノキアシーメンスネットワーク アジア太平洋地域 サービス事業部責任者 ヨルク・エルレマイヤー氏
フィンランドのノキアシーメンスネットワークス アジア太平洋地域 サービス事業部責任者 ヨルク・エルレマイヤー氏
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 この1~2年で,マネージド・サービスは世界的に大きなトレンドになってきた。通信事業者がネットワークを効率的に運用したり,OPEX(運用支出)を下げたりするために,マネージド・サービスが導入される。通信事業者は運用を効率化するだけでなく,自分が集中したい分野の運用に専念できる。これまで通信事業者はネットワーク・エンジニアリングに焦点を置いていたが,現在はサービスを中心に考えるようになってきた。

事業者はどのようなことをマネージド・サービスに望むのか。

 まず事業者が望むのは,ネットワークの効率性。オペレータがインハウスでやっていたことをどのように作業を変えていけるかに注目している。

 既に欧州やインドなどでアウトソースが進んでいる。例えばインドではゼロから通信インフラを構築する際に,マネージド・サービスを使う事業者がいる。

 通信事業者はほかの事業者と差異化できる,強みを持つ分野に集中したいと考えている。具体的には,カスタマ・エクスペリエンスや,エンドツーエンド・エクスペリエンス,マーケティング,セールスといったものを消費者に展開することに注力している。この傾向は日本の携帯電話事業者4社も同じだ。

 例えばLTE(long term evolution)などの新しいサービスを導入するとき,マネージド・サービスを活用すれば,オペレーションすべてではなく一部の業務をNSN任せて,そこに割り当てるはずの人材を別のところに振り向けられる。

海外ではこうした事例があるのか。

 インドネシアのTelkomsel(テレコムセル)という携帯電話事業者は,自身で第2世代(2G)携帯電話システムを運用して,NSNに第3世代(3G)携帯電話環境の構築を任せた。

 英国ではNSNが2Gを運用している間に,通信事業者が3Gの構築を進めたという事例がある。このほか,“クロステクノロジ”と呼んでいるコラボレーション形態もある。これは,どのパートのどのレイヤー,どの部分を任せるかをNSNと事業者が相談のうえ決定するもの。自動化,効率化,モニタリング,マネジメントなど特定の部分に提携してサービスを提供する。

日本の通信事業者とはどういう協力の可能性があるか。

 日本では効率性の改善がまず一つある。というのも日本の携帯電話事業者は特定の業務を丸ごと委託することはないからだ。このほか,新しい技術を導入する際にNSNが基盤を作るところで協力するとか,古くからあるシステムの運用でNSNがサービスを提供するといったところで協力できる。

 通信事業者に向けてサービスを展開するレイヤーは,通信事業者ごとに特有のソリューションとなる。通信事業者からの要求を踏まえて対応していく。

最近の世界同時不況の影響は,通信事業者に現れているのか。

 これは通信事業者がどの地域にいるかで変わってくる。新興市場と成熟市場では全く異なる。

 数年前の通信事業者はCAPEX(設備投資)の削減を考えていたが,現在の金融危機の下ではOPEXの削減や効率性の向上,あるいはバランスシートの最適化を求めている。

通信事業者はLTEの導入を図っているが,不況の影響で変化はあるか。

 技術的には,HSPA(high speed packet access)を取り入れている事業者はいずれLTEを採用する。日本の事業者は特にLTEに熱意を持っている。ただすぐにLTEに移行するかどうかは,投資意欲に左右される。この流れは通信事業者によって違いがあるだろう。

 ただ各事業者のLTEの導入計画は,2009年以降という導入計画に乗っており,決して遅れていないと考えている。まずは欧米と日本といった成熟市場から導入が広がっていく。新興市場のインドなどは3Gの対応に追われており,導入はその後になるだろう。

アジア・パシフィック(APAC)のこれからの展開は。

 システム・インテグレーションやコンサルテーションを含むサービスは,APACでも伸びている。通信事業者がインフラ志向からサービス志向に変化していく中で,運用管理や課金,ソリューションを提供するほか,潜在ニーズを把握してサービスやコンサルを展開していく。

今後の展開は

 サービス分野では,ソリューションを提供することだけでなく,事業者のよきパートナとなって,市場の必要性があるソリューションを提供する。

 グローバル・サービスの拠点は,これまで複数あったものを集中させた。具体的には4月にはインドのチェンナイに新しいNOC(network operation center)を開設した。ユーザーの近くで仕事ができる環境を作り,高い品質を持ったものを提供できるようにしている。