写真1●コムシス情報システムの潮田邦夫社長
写真1●コムシス情報システムの潮田邦夫社長

 ITエンジニアの生産性向上には,エンジニア同士の打ち合わせが効果大――。このような観点から,オフィス環境の改善に取り組む経営者がいる。コムシス情報システム社長の潮田邦夫氏だ。

 潮田氏が狙ったのは,従来型の“古くさいオフィス”を改め,会話しやすいように環境を変えること。具体的には,打ち合わせスペースを増やしたり,隣の席との距離を狭めたりといった工夫をしている。「まずは形から」と語る潮田氏に,オフィス改革の中身とその裏側にある狙いを聞いた。

(聞き手は高下 義弘=日経SYSTEMS

会議は,必要最低限のもの以外はやらないそうですね。

 不必要な会議が多すぎるからです。そもそも,会議というものは柔軟ではありません。たいていの場合,会議室を予約し,参加の必要があると思われる人に声をかけて集まってもらいます。その結果どうなるか。

 ほとんどの参加者にとっては,出番がない。1~2時間の会議のうち,自分が関係するのは10分か20分間だけ。そのため会議中は“内職”する人が出てきます。ほとんどは会議に参加したいとは思わず,ただ「早く終わらないかなあ」と考えるようになる。

「即興的な打ち合わせ」を重視

 だから私は会議ではなく,必要な人が必要なときに応じて相談する「打ち合わせ」の方が良いと考えています。私が理想としている打ち合わせのスタイルが,「即興的な打ち合わせ」です。

 例えば,AさんとBさんが顧客への提案書をまとめている。技術的な問題に突き当たったときに,たまたま技術に詳しいCさんが脇を通る。AさんとBさんは「おい,ちょっとここ教えてくれ」とCさんに声をかける。Cさんは,AさんとBさんの提案書をのぞき込みながら,いろいろ指摘する。Cさんは手元のノートPCを開いて,技術資料を見ながらアイデアを提供する。

 そこに上司のDさんが通りかかる。「それならEさんのプロジェクトが参考になるから聞いてみたら」とアドバイスする。オフィスを見渡すと向こうの方にEさんが座っているので「いまちょっといい?」なんて声をかけに行く。

 こうやって,社員同士が即興的に交わり,その場で出てきたアイデアに応じて柔軟に対話を進めていく。発想には,偶然性と他者との対話が大きく貢献します。そのため,提案書や設計書といった成果物の質は,打ち合わせをするたびに高まっていきます。

 このような「打ち合わせ型」による仕事の進め方は,会議を開くときにもメリットがあります。議案が,会議に提出された時点でかなり練られたものになっているからです。これで行こうとか,ここだけ直して後は進めていいよとか,意義のある議論ができます。

 一方,ただ会議だけで物事を決めていく「会議型」はどうでしょうか。みんなが「ドア」と「カベ」で区切られた会議室に押し込められます。議案が十分に練られていなくて別の情報がほしいと思っても,わざわざ会議室を出て調べに行く,ということにはならない。結局その場では何も決まらないので,何度も会議をやる。時間ばかりが過ぎていくわけですね。

 要するに,時間と参加者と議題をかっちり決める会議は,クリエイティブな発想が出てこない。打ち合わせに比べて即興的ではないし,柔軟ではないからです。

 そこで私は,本当に必要な会議だけを残した上で打ち合わせを増やそうと考え,2004年ころから日本コムシス社内でさまざまな取り組みを進めてきました。

注:潮田氏はNTT東日本,NTTドコモ勤務を経て2004年に日本コムシスに取締役として入社。2009年4月に子会社であるコムシス情報システムの社長に就任した。