ビジョンに沿った全体最適は「やれる」と言う人にやらせる

 NECが今、「ITとネットワークの融合」を掲げ、組織改革やシステム刷新など“次の一手”を繰り出している。その狙いは、個別最適からの脱却。矢野薫社長は、就任以来3年をかけ、理念を明確にし、それを実現するための制度を考え、それを実行するための組織作りに取り組んでいたという。総額400億円を投資して、グループ15万人が使う新システムは、それらを裏打ちするための基盤であり、かつクラウド時代の主導権を確保するためのショーケースでもある。(聞き手は谷島 宣之=日経コンピュータ編集長、写真は小久保松直)

2009年4月1日付の組織改正は、顧客から見ると何が変わるのか。

 何よりもまず、分かりやすくなります。当社は“ITとネットワークの融合”と言っているわりには、ITの営業もいればネットワークの営業もいて、お客様からすると「一体だれに何を話せばいいのか」という状態だった。営業体制の見直しは長年できなかったけれど、「もういい。営業というのは一つだ」と決めて、営業BU(ビジネスユニット)に営業3300人を集結させた。

 この3300人はNECの全製品と全サービスを提案します。お客様から見て、シングルウィンドウになる。いくら何でも海外まで一本にできないと言うので、海外営業BUを別途作りました。

昔からあった話では。

 そう、昔から。ただ、僕みたいに強引にやる人がいなかった。今回も何か言ってきたけれど、「何を考えている、俺がやると言っているのだからやる」と無理無理やってもらいました。

(写真・小久保 松直)

 ただ、それだけでは動かないから、ITサービスBUという、コンサルティングからシステム開発・運用・保守・アウトソーシングまでIT関係をすべて担当する部門を新設し、ここに業種営業の半分ぐらいを残しました。ここで業種戦略をがっちり作り上げたい。

 ITサービスBUから、この業種にはこういう提案をしよう、という指令が顧客を担当する営業BUの営業に通る。その営業は従ってやるけれど、そこは日本の良さで、トップダウンだけではなくてボトムアップもある。「そうは言うけど、お客様はこう仰っているよ」と営業からフィードバックできる。営業BUがオールNECの代表として訪問し、ITサービスBUは弾を作る、と役割をはっきりさせました。

顧客訪問時間を5割増しに

突然代表になって困らないか。

 もっと教育をしなければならないし、1人といっても、チームをうまく作らないといけない。それはこれからです。ただ、基本的考え方はいまお話しした通りにやります。とにかく、もっとお客様のところに行ってほしい。

 ちょっと乱暴ですが、「会議とか社内調整をして仕事をしている気分になっていないか。君たちはお客さんのところに行ってなんぼだろう。今までの1.5倍行け」と言いました。この不況の時ですから、今こそ、もっともっとお客様に密着して、本当にお客様が必要なこと、お客様が困っていること、お客様の経営課題、それを解決するような提案をしなければならない。

 正直かつ正確に言うと、これまで行けていなかったお客様というのが大変多い。商談の不戦敗が多過ぎる。「NECの営業なんて見たことがない」と仰るお客様が結構おられるのです。これだけ会社があるのに、行けていないところばかり。あるお客様で定点観測したら、前より来るようになったという程度でしょう。「今まで来なかったのにNECが来るようになった」と仰るお客様が増えてくることも目標です。