写真1●「Autobahn」を使ったワールド・ベースボール・クラシック配信の様子
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 オニオンネットワークスは,動画配信の高速化技術を提供する企業。同社の技術「Swarmcast」とクライアント・アプリケーション「Autobahn」は,USENの動画配信サービス「GyaO」や,2009年3月5日から米MLBアドバンスト・メディアが提供しているワールド・ベースボール・クラシックの試合中継(写真1)などに採用されている。サービス統括本部の齋藤修本部長と,技術部の田中秀和チーフエンジニア(写真2)に,「Swarmcast」と「Autobahn」の特徴や,今後のビジネス展開について聞いた。

(聞き手は田村 奈央=日経コミュニケーション


「Swarmcast」「Autobahn」とはどんなものか。それぞれ仕組みを教えてほしい。

写真2●オニオンネットワークス サービス統括本部 本部長/営業企画部 部長の齋藤修氏(左),技術部 チーフエンジニアの田中秀和氏(右)
写真2●オニオンネットワークス サービス統括本部 本部長/営業企画部 部長の齋藤修氏(左),技術部 チーフエンジニアの田中秀和氏(右)
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齋藤 「Swarmcast」は当社が提供する高速コンテンツ配信技術の総称,「Autobahn」はSwarmcast技術を取り入れたクライアント・ソフトウエアの名称だ。

 例えば動画配信サイトにアクセスする際,ユーザーの回線状況によってはスムーズな再生ができないことがある。「Swarmcast」「Autobahn」はこうした問題を解決する。

田中 Swarmcastのサーバー側のシステムでは,オリジナルの配信ファイルを置いたサーバーから,複数の拠点に用意したミラー・サーバー群に,コンテンツを自動的にコピーする。クライアントのパソコン側にはAutobahnをインストールする。エンド・ユーザーがWebブラウザ上でコンテンツにアクセスすると,バックグラウンドでAutobahnが複数のミラー・サーバーの応答速度をチェック。通信状況の良いミラー・サーバーの上位四つ~五つから,コンテンツのダウンロードを開始する。

 一般的なCDN(contents delivery network)では,クライアントとサーバーが一対一で通信することが多い。Swarmcastでは配信データを分割して,複数のミラー・サーバーから異なる部分を同時にダウンロードすることで効率を高めている。ダウンロード・データはクライアント側のAutobahnで一つにまとめてから再生する。当社ではこれを「マルチソース・ストリーミング」と呼んでいる。

 Autobahnは一定時間ごとにミラー・サーバーとやりとりし,回線状況に応じて接続先のミラー・サーバーを動的に変更する。そのため,ミラー・サーバーがダウンした場合は接続先を自動的に切り替えることができる。

 また,AutobahnはFlash Playerを利用するストリーミング・コンテンツ向けに,回線状況に応じて配信ビットレートを7段階に変更できる「アダプティブ・ビットレート」機能を備える。ストリーミング再生中に回線の状況が悪くなったら,自動的にビットレートを下げるといった処理が可能だ。ユーザーはいつも最適の状況でストリーミング視聴できる。

齋藤 ミラー・サーバーとしては,当社が日本や米国に用意した複数拠点のサーバー群(拠点数は非公開)を利用できるほか,大規模CDNを併用することもできる。

P2Pを利用したコンテンツ配信システム,例えばBBブロードキャスト(TVバンク)やUG Live/Ocean Grid(ウタゴエ)との違いは。

田中 「一つのデータを分割して,複数のマシンから同時にダウンロードする」点では,上記のようなP2P型コンテンツ配信システムと共通する。ただし,クライアント側のソフトウエアにコンテンツ配信機能を持たせない点が異なる。実際のところ,Swarmcastは当社の持っている複数のコンテンツ配信技術の総称であり,その中にはマルチソース・ストリーミングの他に,クライアント同士のP2P配信技術も含まれている。ただし,今のところ実際のサービスにはP2Pを実装していない。

齋藤 クライアント側にP2P配信機能を持たせると,P2Pネットワークに参加しているクライアントの数や状況によって,コンテンツの配信速度が変わり,当社側でのクオリティ・コントロールが難しくなる可能性があるためだ。

料金体系や売り上げ目標を教えてほしい。

齋藤 料金については個別見積もり。基本は月額課金で,顧客のシステムに応じて1Gビット/秒単位もしくは1Gバイト単位での契約となる。当社は日本の他に米国,ヨーロッパにも拠点があり,2009年度はワールドワイドで売り上げ約35億円を目指している。