総務省は,2011年の実用化を目指す携帯端末向けの次世代マルチメディア放送の検討を進めている。国内の有力候補はワンセグの技術をベースにした「ISDB-Tmm」と,米クアルコムが携帯端末用の放送技術として開発した「MediaFLO」の2種類(関連記事)。携帯電話の事業者別に見ると,NTTドコモ陣営は事業会社「マルチメディア放送」を結成してISDB-Tmmを推進。ソフトバンク系の「モバイルメディア企画」もISDB-Tmmを選んだ。一方で,KDDI系の「メディアフロージャパン企画」はMediaFLOを支持する。

 総務省は2008年7月の報告書で「今後いずれかの段階で技術方式が統一されることが望ましい」としているが,MediaFLOの国内導入に向けた見通しはどうか。クアルコムジャパンのビジネス開発シニアマネージャーで,メディアフロージャパン企画のシニアマネージャーでもある小菅祥之氏に話を聞いた。

(聞き手は,松元 英樹=日経コミュニケーション


クアルコムジャパンの小菅祥之ビジネス開発シニアマネージャー
クアルコムジャパンの小菅祥之ビジネス開発シニアマネージャー
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MediaFLOの技術的な優位性とは。

 ワンセグは家庭内に固定して使うテレビ放送を発展させたものだが,MediaFLOははじめから移動体通信で使うことを想定して開発した技術だ。例えば,受信した電波の中からユーザーが視聴している部分だけを復調することで消費電力を下げる機能を備える。テレビ放送の映像は可変ビットレートで送信するため,周波数あたりの送信データ量を上げやすいというメリットもある。

 テレビ放送をすると同時に,空いた帯域を利用して,映像データを送信し,端末のメモリーに保存する蓄積型配信サービス「クリップキャスティング」が利用できる。これで,地下鉄など,電波が届かない場所でも映像が楽しめるというわけだ。天気やニュースなどの情報を端末に送信する「IPデータキャスティング」機能もある。

総務省が国内の技術方式としてMediaFLOを選ぶ可能性は。

写真●島根県の松江市でUSB接続の端末を使い,蓄積型配信サービスの検証している
写真●島根県の松江市でUSB接続の端末を使い,蓄積型配信サービスの検証している
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 現在,総務省から委託を受けた電波技術協会(reea)が,地上アナログ(VHF)の10~12チャンネルの周波数帯で,MediaFLOとISDM-Tmm方式が共存できないかという研究を進めている。この結果報告は,2009年3月に総務省に提出される。ここで共存が可能と示されれば,MediaFLOにとって大きな前進になるはずだ。

 総務省は,はじめから一方式に絞っているのではない。候補となるそれぞれの技術について検討を進めている。実際,我々は総務省から認可を受け,ユビキタス特区におけるMediaFLOサービスの実験を進めている。沖縄の那覇市では,VHFの11チャンネルでテレビ放送や蓄積型配信サービスを検証している。

 島根県の松江市では,地元の事業者メディアスコープや島根大学とUHFの62チャンネルを使って,情報配信サービスの実験をしている。ここではスマートフォンやパソコンにも接続できるUSB接続の端末(写真)を使っている。

ソフトバンクの離脱は影響ない

かつてソフトバンクはMediaFLOを支持していたが,ISDB-Tmmに切り替えた。

 仲間の多さをアピールするのではなく,技術面で訴える。我々は従来通りに技術の開発を淡々と進めるだけだ。KDDIとしても,MediaFLOが利用できるようになった際に周波数の割り当てをめぐる競合が少なくなり,むしろやりやすくなる可能性もある。もし,限られた周波数をMediaFLO勢で2つに分割するとなれば,サービスの運営が苦しくなるからだ。

米国におけるMediaFLOサービスの状況は。

 米国では,米AT&Tや米ベライゾン・ワイヤレスがMediaFLOのサービスを運営しているが,現状ではサービスが利用できる地域は限定されている。MediaFLOで使う周波数帯は,アナログテレビで使われていた帯域で,地域によっては従来利用していた放送事業者が利用しているからだ。

 デジタルテレビに完全移行すれば,その帯域が開放され,全国でMediaFLOが利用できるようになる。各社の本格的なサービス展開はそれからだろう。オバマ政権の方針で,デジタルテレビの移行は数カ月遅れる可能性もあるが,多少の遅れはあっても,周波数帯の開放とともにMediaFLOの普及は加速するはずだ。