東京都の「環境確保条例」が改正され,都内の約1300の大規模事業所は,2010年度から温室効果ガス排出の総量削減が義務づけられることになった。なぜ事業者の自主的取り組みではなく,削減義務が必要なのか。電力を大量消費するデータセンターはどれくらい削減しなくてはならないのか。東京都環境局環境政策部環境政策主査の千葉稔子氏に聞いた。

(聞き手は福田 崇男=日経コンピュータ高木 邦子=ITpro



東京都環境局環境政策部環境政策主査の千葉稔子氏
東京都環境局環境政策部環境政策主査の千葉稔子氏
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東京都の「環境確保条例」が改正され,2010年度から約1300の大規模事業所に温室効果ガス排出の総量削減が義務づけられることになった。なぜ「削減義務」が必要なのか?

 東京都では2002年度から大規模事業所を対象に,温室効果ガス排出量の報告や,自主的に削減目標を設定してその対策を義務づける「地球温暖化対策計画書制度」を開始した。2005年度からは提出された計画書を都が評価し,対策(削減計画)に対して助言・指導を行っている。

 現行制度を運用する中で表面化してきた問題は,毎年8月末に計画書案を提出してもらう段階で,半分以上の計画書案が5段階評価(AAA,AA,A,B,C)のうち「取り組み不十分」に当たるB,C評価にとどまっていることだ。都では,3年くらいで投資回収できる省エネ対策をすべてピックアップし,計画に盛り込むように求めているが,自主性に任せている段階ではなかなか実施されない。そこで担当者に都の窓口まで来てもらい,いろいろと指導することで,12月に提出する最終的な計画書では何とか8割がA評価以上になっている。

 現行制度のままでは,2020年までに温室効果ガス排出量を2000年比25%削減するという都の中長期目標の達成が難しいことが見えてきた。そこで事業所ごとに温室効果ガスの削減義務量を割り当て,都として着実に総量削減していく枠組みを作ることにした。

事業者の自主的な取り組みだけでは限界があるということか。

 都としては,各事業者にそれぞれの業態などに合った抜本的な削減対策を立案・実施してもらいたいが,多くの事業者は都の指導レベル以上のことはやらないというのが現状だ。その理由を事業者に聞いてみると,「対策をやらなければ何か罰則があるのか」「これ以上の対策をするには経営トップの判断が必要。担当者レベルではどうにもならない」などの声が上がってきた。

 つまり事業者の自主性に任せている現状では,多くの場合,温暖化対策の立案・実施が省エネ対策担当者のレベルにとどまっているのである。対策を実施するにはそれ相当の投資を伴うが,現場レベルでできることは自ずと限られてくる。

 そこで2008年に「環境確保条例」を改正し,大規模事業者に温室効果ガス排出量の「総量削減」を義務づけ,違反した場合には社名公表や経済的負担を伴うものにした。その真の狙いは,温暖化対策を現場レベルから経営課題へと引き上げることにある。どうすればCO2排出量を減らせるのか,全社で真剣に考え,組織的に対策に取り組んでもらいたいと考える。

データセンターも一般オフィスと同じ削減義務率を適用

実際に,対象となる事業所は,CO2排出量をどれくらい削減しなくてはならないのか。

 削減義務の対象となる事業所は,現行の計画書制度と同じ基準を想定している。すなわち「年間の燃料,熱,電気の使用量が原油換算で年間1500キロリットル以上」の事業所。一般のオフィスビルであれば,床面積2万~3万平米以上のビルが対象となる。2002~2007年度の6年間の中で,連続する3カ年度の平均を基準排出量とし,それに部門ごとの削減義務率をかけて,削減義務量を設定する。削減義務率は,「産業部門」「業務部門」など,エネルギー消費構造の類似性に基づいた大枠で設定し,業種ごとの細かい設定にはしない方向だ。設定方法の詳細は2009年夏ごろをメドに公表する。

 削減計画の実施期間は2010~2014年度の5年間(第一計画期)で,削減義務が履行されたかどうかの確認は,6年目の2015年度に実施する。もし削減義務が未達成の場合は,削減不足量に一定割合加算(最大1.3 倍)した量を削減するように都から命令が出される。さらにその命令にも違反した場合,違反した事業者名を公表するほか,知事が削減義務量を排出量取引などによって調達し,その代行費用を請求する。最大50万円の罰金が課されることもある。

サーバーやネットワーク機器が集積しているデータセンターでは,床面積当たりの電力消費量が大きく,特に都心部では電力不足の問題が表面化しつつある。オフィスビルに入っているデータセンターも,通常のオフィスビルと同じ削減義務率が適用されるのか。

 同じ削減義務率を求めていく。都内のオフィスビルの床面積当たりエネルギー消費量(エネルギー消費原単位)の平均は2365メガジュール( MJ)/平米。これに対し,データセンターのエネルギー消費原単位は7528MJ/平米と3倍以上にもなる。

 こうしたデータセンターは都内に130カ所くらいあり,都としてもその対策を重視している。サーバーは24時間稼働のうえ,その発熱を抑えるための空調にも大きな電力を必要とする。通常のオフィスとは事情が異なるのは確かだが,省電力サーバーや効率的な冷却設備など“グリーンIT”の技術開発が進んでいる。データセンター事業者にも一般のオフィスビルと同じ削減義務率で対策に取り組んでもらう。

オフィスビルにおいて,削減義務の対象となるのはビルのオーナーになる。データセンター事業者がビルのテナントで,ビルのオーナーとは別という場合,削減義務の対象は誰になるのか。

 データセンター事業者がビルのテナントである場合,削減義務を負うのはビルのオーナーである。ただし,改正・環境確保条例では,すべてのテナントに対して,オーナーが行う対策に協力することを義務づけている。例えばビル内会議などで夏の節電推進対策を決定したとすれば,すべてのテナントはその議決事項を理解し,協力しなくてはならない。

 さらに,一定規模以上のテナントに対しては,テナントとしての独自の温暖化対策計画書を作成し,オーナーを介して,都に提出することを義務づけている。したがって都がテナントを直接指導することもあり得る。

テナントには削減義務がないからと安心せず,積極的に省エネ対策に取り組む必要があると。

 その通りだ。じつは,テナント事業者から「対策をやろうと思うのだが,何から取り組めばいいか」といった数件の問い合わせが来た。オフィスビルの省エネ対策は,「空調」「照明」「コンセント」が3大要素といわれる。このうち「空調」と「照明」は主にビル・オーナーが取り組むべきもの。テナント事業者には,「コンセント」すなわちOA機器やIT機器の対策にぜひ取り組んでほしいと伝えている。

 そこでIT機器やOA機器のベンダーにぜひお願いしたいのだが,製品を売ったらそれで終わりというのではなく,省電力になる機能や運用方法を顧客に積極的に提案してもらいたい。グリーンITの技術や製品は市場に出てきているようだが,まだ十分にユーザーは使いこなせていないのではないか。国や都の環境規制の強化によって,ITベンダーの提案を生かせる土壌は育ってきたと思うので,ユーザーと一体になって,さらに対策を進めてほしい。