![[後編]09年は今後を決める大事な年,11年以降の5年間はここで決まる](tit_interview.jpg)
>>前編
一方で総務省の政策にも変化が見える。民間主導による話し合いで決着を求める場面が増えている。
確かに変わった。それは当初のもくろみ通りと言える。
私自身が20数年前に当時の郵政省で通信自由化を担当し,それから十数年にわたって総務省は規制緩和を進めてきた。その結果,コンテンツやプラットフォームなど法制度の枠外の政策的課題が増えてきた。その部分で行政のコントロールが効かなくなっているのは,当初の政策が成功した証だ。
同時にこの10年間で霞が関全体が,機能不全を起こしているようにも感じる。例えば今年はダビング10やネット有害情報の規制という,複数の官庁にまたがる案件が浮上した。かつてならば霞ヶ関内で決着がついた案件だが,どちらも行政では裁けず,最終的に民間関係者間で結論を得た。これからは民間主導で政策を作るようなプロジェクト的手法が重要になる。
とはいえ行政が,何らかの旗を振る役割も残っているのでは。
行政は社会や経済が元気を出すようなメッセージを発信して,さらに構造改革を進めるべきだ。融合の議論を大きく進めた竹中平蔵元総務大臣のように,政治・政策的なリーダーシップが必要だ。目指すべき方向性を間違えずに,うまく見せられるかがポイントになる。
特に2009年は,今後の方向性を決めるうえで大事な年だ。その時点での立ち位置や構造次第で,2011年以降の5年間の行く末は決まる。総務省は,2011年に施行予定の情報通信法をどうするのか。また2010年の段階で組織形態を検討する予定のNTTは,2009年には内部で方向性を考える必要がある。
総務省で委員として検討に加わっている情報通信法の進捗状況は。

中間論点を9月にまとめ,現在各界の意見をヒアリングしているが,まだ賛否両論ある。とはいえ2010年中に国会に提出する当初のスケジュールを考えると,もうほとんど時間がない。
私は現在の9本の法体系の構造を抜本的に変え,レイヤー別に一本化すべきだと言い出した張本人であるが,そこにこだわってはいられない。実現可能な落としどころを考える時期に来ている。
情報通信法が目指すのは,通信と放送が融合して,現在の市場をさらに広げるという明るい未来を設計する面にある。規制緩和を進めることが第一目的だ。その意味では,規制の強い電波法をどう手直しするのか。さらに通信サービスを規制する電気通信事業法を,どれだけ柔軟な形にできるのかという部分に議論が必要だ。まだこれらの部分で議論がしっくり来ていない。
国民的なコンセンサスがないと法律は成立しないだろう。そもそも現在の政治状況では,各政党から支持されないと国会を通らない。
日本市場も国際競争の中に否応なしにさらされるようになってきた。日本は今後,何を強みとすべきか。
日本の強みは,端末やデバイスなどのものづくりの力と,マンガやアニメなどのポップカルチャーを作れる文化力。その両面を持つところだ。
それを可能にしているのが,ハイエンドな端末でも使いこなせる青少年の“ユーザー力”だろう。ギャル文字を女の子たちが作り,それでコミュニケーションを取ったり,ケータイ小説をモバイルで書くといった能力だ。
このような日本の強みを伸ばすために,行政が国内の環境をきっちり強化することが重要になる。一つはユーザーが使いこなす力を強化するための,教育や人材育成に力を入れること。もう一つは規制緩和だ。通信と放送の融合を進めたり,デジタル・サイネージのような新しいビジネスを起こすなど,世界的に見ても魅力的な国内マーケットを作るべきだ。
先日訪問したポーランドのワルシャワでは,博物館に来ていた子供たちのほぼ全員が携帯電話のカメラ機能を使ってリポートを作成していた。デジタル機器の使いこなしで日本が先行していたが,世界に追い付かれつつある。それなのに日本では,子供たちから携帯電話を遠ざけようという,逆の議論が出てきている。これでは日本の強みを捨てかねない。このあたりは心配だ。
中村 伊知哉(なかむら・いちや)氏
(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2008年11月25日)