日本能率協会(JMA)は2008年11月18日、日本企業の次世代の経営者の育成方法を調査した「次代の経営者探求」に関する結果を発表した。調査報告の要約は既に同協会のウェブサイトで公表されているが(調査報告書)、同調査においてトヨタ自動車やキヤノンなど次世代経営者育成に熱心な先進企業10社を2カ月かけて調べた結果や、それを踏まえての提言は未発表である。

 そこで同調査を担当したJMAマネジメント・インスティチュートの村橋健司本部長に、調査を踏まえての提言や先進企業の取り組みの特徴を聞いた。

(聞き手は西 雄大=日経情報ストラテジー


日本能率協会マネジメント・インスティチュートの村橋健司本部長

次代の経営者をうまく育成できるよう研修を運用する秘けつは何か。

 研修を「儀式化」させないことだ。例年と同じプログラムを繰り返したり、受講者の集め方を疎かにしたりするようでは効果が上がらない。

 儀式化に陥らないためのポイントとして、見逃されがちなのが事務局のスタッフに熱意があるかどうかだ。事務局は経営陣や講師、派遣元の現場部署の間を取り持つ存在であり、自らが受けたいと思うようなプログラムを作れるかどうか、大きな責任がある。有望な人材を研修に出してもらうためには、現場に出向いて研修内容について不満を聞くなど、営業的な活動も厭わず行わなければならない。

 熱意を保つためには、事務局のスタッフも最初から最後まで研修に参加しなければならない。事務局スタッフは講師にあいさつしたり、司会進行したりするだけで退席してしまうケースもあるがそれでは駄目だ。参加者と同じ目線で改善の種を探さなければ研修プログラムは良くならない。事務局のスタッフには、人事畑が長い人よりも、営業部門などに長く在籍して現場に精通している人のほうが好ましい。

 今回、詳しく調査した先進企業10社のうち、儀式化に陥らない工夫をうまくこらしていたのが東レだった。部長を対象にした「東レ経営スクール」が17年も継続しているのは、事務局に熱意があるからだ。マンネリに陥らないよう、毎年春に講師とプログラム内容を議論している。特に、現実の経営課題の解決に取り組みながら教育研修を実施する「アクションラーニング」に力を入れていた。アクションラーニングの中身も、海外や競合他社へのインタビューを行うなど内容が濃いものだった。経営者育成の研修でアクションラーニングを取り入れている企業は多いが、海外まで出向くのは他社と本気度合いが異なる印象だった。

受講する人材の選抜面の課題は。

 受講者の選び方で自薦が少ないことが気になった。若すぎるように見えたとしても、ギラギラした人材が応募するほうが活気づくはずだ。部門長が推薦したり人事部門が選抜したりする際には、各部門で研修に参加できる人員の割り当てが決まっているケースが多い。部門内で甲乙つけがたい人材がそろっている場合に、自薦を競わせるといった運用もあってよいはずだ。自薦を受け付けない企業が多いのも、熱意を欠いた事務局が多く、小論文や面接など手間隙かけて選考するのを面倒くさがっていることの表れではないか。

今回の調査では、グローバルに通用する人材の重要性は理解されつつも育成に取り組めている企業が少ないとの結果が出ている。先進企業はどのようにグローバルに通用する経営者育成に取り組んでいるのか。

 今回調査した企業の中で、特にグローバル化に熱心なのは、キヤノンとトヨタ自動車だった。キヤノンは「CCEDP(キャノン コーポレート エグゼクティブ ディベロップメント プログラム)」、トヨタ自動車は「EDP(エグゼクティ ブディベロップメント プログラム)」という選抜研修を実施している。それぞれ受講者は日本人と外国人が同数で、しかもキヤノンは研修をすべて英語で行っている。

 また、海外現地法人の幹部育成に熱心な例としては、キリンホールディングスが実施している「アジアリーダーズフォーラム」が挙げられる。現地法人に勤務する中国人や台湾人の部長や課長を対象とした研修を実施し、2年間にわたって同社の行動憲章であるキリンウェイや人材育成計画づくりなどを学ばせている。こうした事例は他社にも参考になるだろう。