[後編]経済環境が厳しいときほど顧客を支援

>>前編 

競合他社と違いを出す。そのためにシステムを自前で作り、運用するという戦略はよくわかりましたが、リスクもより大きくなるのではないですか。

 証券会社の事業そのものが、リスクをとらないとリターンが得られません。リーマンにしたって、ライバルたちに比べてハイリスク・ハイリターンのビジネスを展開し、高収益を上げていた。今回はそれが裏目に出たわけですけど。

 IT投資についてもリスクは覚悟しなければなりません。リスクのあるシステムは作らないという考えは全くないです。パッチを当てるだけでもリスクだし、ハードウエアの入れ替えだって、リスクですよね。

 ほとんどの金融機関のトップは、当社が自前で好き勝手にシステムを内製しているのをうらやましくと思っているのではないでしょうか。ただし、当社も立ち上げたころと比べたら、慎重にならざるを得なくなっているのは確かです。10年前はお客さんがゼロで、預かりもゼロだったから思いっきり挑戦できました。しかし今では、60数万人のお客さんがいらっしゃって、1兆円以上預かっています。だからシステムインフラをがらりと変えるとなると、ものすごいリスクになる。リターンはあるけど、たぶんリスクのほうが大きくなってしまう。

まだWindowsサーバーの実績がほとんどないときに、基幹系に全面採用して話題になりましたが、プラットフォームの選択でもリスクをとっていく?

 実績や経験がないから避けるということはないですね。当社はWindowsプラットフォームを多く使っていますが、Linuxも採用しています。PTSはLinuxを搭載した米イージェネラのブレードサーバー上で稼働させています。OSにしてもミドルウエアにしても食わず嫌いはしません。要は和食も好きだし、洋食も好きだし、中華も好きです、ということ。おいしければいい。それが高じてだんだん創作料理になってきている感じですよ(笑)。

クラウドコンピューティングが注目されています。サーバーを自社で所有して運用せずに、例えばアマゾン・ドットコムが提供する基盤サービスを利用するといったことはあり得ますか。

齋藤 正勝(さいとう・まさかつ)氏
写真:乾 芳江

 SLA(サービス・レベル・アグリーメント)を考えるとないでしょうね。当社は2002年から注文を5分以内に執行するSLAをうたっています。法人向けビジネスではSLAは常識ですが、これまではネット証券のお客さんは個人投資家が中心でそれほどSLAは求められなかった。でもこれからは、BtoBtoCにような形態が増え、必要性が高まってくると思います。

 それにしてもアマゾンはすごいですよね。自分たちで発電までやろうとしている。電気の重要性がわかっていますよ。僕は、ITリソースの肝は人と電気だと思っています。人は東京が一番潤沢ですが、電気は違う。第2システムセンターを福岡県に作ったのはそれも理由です。災害時には本社機能を福岡で代替します。

若手は1日30分間の勉強を

齋藤社長はシステム部門のエンジニアからスタートし、起業して一部上場会社の社長まで上りつめました。若い人たちにとっては大きな目標になると思いますが、アドバイスをいただけますか。

 これからはITがわかるとか、ソフトが書けるくらいでは専門家とは言えなくなるでしょう。今の知識は3、4年後には使い物にならない。だから1日30分でいいから、自分の未来に投資する時間をとりなさいとアドバイスしたいですね。僕もずっと続けてきました。 1日30分、もっと言うと1日5分でもいい。ただし、毎日やる。土日くらいはまあ休んでもいいでしょう。でもできれば土日のどちらかはやる。だまされたと思ってやってみてください。毎日習慣づけることができれば、3カ月で変わってきます。3カ月続けると、やらないと気持ちが悪くなる。1年もすると、勉強のコツを覚えてきて、1時間くらいできるようになる。3年たったら、周りとは違うオーラが出始めて、「すごいできる奴」と見てくれるようになる。そうなればしめたものです。

カブドットコム証券 取締役 代表執行役社長
齋藤 正勝(さいとう・まさかつ)氏
89年多摩美術大学卒業。野村システムサービス、第一証券を経て、98年に伊藤忠商事に転じオンライン証券設立事業の立ち上げに参画。99年日本オンライン証券設立に伴い入社し情報システム部長に就任する。01年イー・ウイング証券と合併しカブドットコム証券と改称。02年最高業務執行責任者、04年代表執行役社長、05年6月から取締役を兼務し現職。経済産業省が主宰するIT経営協議会のメンバー。1966年5月生まれの42歳。

(聞き手は,桔梗原 富夫=日経コンピュータ編集長,取材日:2008年9月24日)