日本国内のIPTVの仕様は「IPTVフォーラム」が策定している。日本の通信事業者のIPTVサービスは,いずれその仕様に準拠していく方向である。一方で,海外では「オープンIPTVフォーラム」がIPTVの仕様を策定している。こちらの仕様は,主に欧州の通信事業者が採用していくという。将来,これら二つのフォーラムの異なる仕様が問題になっていく恐れがある。スウェーデン エリクソンのIMS Cable,PA Core & IMSのソリューション・オーナーで,オープンIPTVフォーラム運営グループ議長を務めるユンチャオ・フー氏に話を聞いた。

(聞き手は,高橋 健太郎=日経コミュニケーション


オープンIPフォーラムの活動状況は。

オープンIPTVフォーラム 運営グループ議長のユンチャオ・フー氏
オープンIPTVフォーラム 運営グループ議長のユンチャオ・フー氏
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 現在,リリース1とリリース2の策定作業が並行で進められている。リリース1は,一般的なリニアTVやVOD(ビデオ・オンデマンド)や,それらに双方向通信機能などを追加したサービスを対象としている。リリース2は,テレビ・セットとパソコン,モバイル端末へのシームレスな配信を対象とする。

 リリース1は,アーキテクチャの策定がすでに完了している。現在は詳細な技術仕様を記述したソリューション・スペシフィケーションを策定しており,11月中には完了する予定だ。リリース2については,要求仕様を固めている段階で,こちらの策定も11月の完了予定。リリース2のアーキテクチャは2009年3月までに終え,その後ソリューション・スペシフィケーションの策定作業に入る。

オープンIPTVフォーラムで決めているIPTVシステムのアーキテクチャはどのようになっているのか。

 オープンIPTVフォーラムでは,NGNのようなマネージド・ネットワークとオープンなインターネットを一つのアーキテクチャで定義する(図1)。ユーザーとネットワークのインタフェース「UNI」は統一されている。また,IMS(IP Multimedia Subsystem)を制御の中心に据えていることも重要な点だ(図2)。

図1●オープンIPTVフォーラムが規定するIPTVのアーキテクチャ
図1●オープンIPTVフォーラムが規定するIPTVのアーキテクチャ
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図2●オープンIPTVフォーラムが規定するアーキテクチャと機能のマッピング
図2●オープンIPTVフォーラムが規定するアーキテクチャと機能のマッピング
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日本国内では,IPTVフォーラムが策定した標準に準拠するのが基本的な流れだが,そのIPTVフォーラムとの関係は。

 オープンIPTVフォーラムの内部では,まだ議論が終わっていない。だからオープンIPTVフォーラムの立場で話すのは難しい。しかし,エリクソンの立場としてなら話すことができる。

 まず強く望むことは,二つのフォーラム間での意見交換である。標準化の作業が重複してしまうことは避けなければならない。仕様策定で協調し,仕様をクロス・リファレンスすることが望ましい。

 また,オープンIPTVフォーラムとIPTVフォーラムの両方のメンバーによって仕様のギャップを分析することを提案する。

オープンIPTVフォーラムとIPTVフォーラムの仕様で,最も大きな違いはどこにあるのか。

 オープンIPTVフォーラムでは,IMSをベースにした動的QoS(quality of service)制御を採用している。これはユーザーの通信ごとに帯域を動的に制御する機能だ。こうした機能は,IPTVフォーラムの仕様には含まれていない。

 ただ,NTTのNGNには,そのような動的QoS制御の機能が搭載されている。そうした機能を利用すれば,SDとHDの差異化をもっと効果的にできる。

 また,オープンIPTVフォーラムの仕様に盛り込まれているユーザー・アイデンティティの機能が,IPTVフォーラムの仕様には入っていない。この機能は,IPTVサービスの個人化と双方向化の二つを実現するうえで欠かせないと考えている。このユーザー・アイデンティティもまた,IMSを利用している。

 この他にもDRM(digital rights management)方式にも違いがある。もっと詳細に見ていけば,コーデックなどにより多くの違いが見られるだろう。

ギャップを解析したあとはどうするのか。

 ギャップの内容が明らかになれば,それを埋めるための仕様を次回のリリースに盛り込める。すぐには難しいかもしれないが,徐々にギャップを縮めていけるだろう。