
MVNO(仮想移動体通信事業者)の先駆けである日本通信。NTTドコモとの相互接続を実現し,8月に第3世代携帯電話(3G)のデータ通信サービスを開始した。MVNOの新規参入を支援するMVNE(mobile virtual network enabler)事業の展開や,米グーグルの携帯電話プラットフォーム「Android」ベースの端末の投入も視野に入れる。今後の戦略を三田社長に聞いた。
8月に始めたデータ通信サービスの手応えは。
期待通りにつながり,速度もきちんと出ている。データ通信端末と一定時間の通信利用権をセットにした「bモバイル3G・アワーズ」に加え,アプリケーションの種類や使い方に応じてユーザー企業ごとに定額料金を個別に設定する「I・Care3G」も投入した。
ビジネスは順調に伸びている。2009年3月期第2四半期の業績は黒字化できる見通しだ。
編集部注)2008年11月13日に発表した2009年3月期の第2四半期決算では赤字幅が拡大したが,これは会計処理方法を見直したためである(関連記事)。
中国ZTEからUSBタイプの端末を10万台,独自で調達したというが,これはいつごろまでに売り切る考えなのか。
10万台を発注したと言っても,当社単独ですべて販売するとは限らない。違う会社のロゴが入る可能性もあり,それを含めて10万台になる。しかも一気に調達したわけではない。ZTEの製造スケジュールと合わせながら分割調達している。
このような柔軟な調達ができるのは,ZTEが全世界で端末を大量に販売しているから。今回調達した端末は2007年に全世界で3500万台の出荷実績があり,当社が一気に10万台を調達しなくてもZTEは困らない。全世界で端末を販売するメーカーと組むメリットはこうした点にある。
MVNOとして自らサービスを提供する一方,MVNOの新規参入を支援するMVNE事業も見据えている。二つの事業のバランスをどう考えているのか。

我々自身がMVNOを展開する理由は他のプレーヤが参入していないから。市場があれば,そこに向けてサービスを提供する。一方,当社にはMVNOの前例を作って市場を広げていく役割もある。他社の要望があればMVNEとして端末からネットワークまでをまとめて提供する。
ZTE製端末の最低ロットは5000個で,小規模から始めることが可能だ。既に通信事業者や商社と具体的な話を進めている。MVNEの定義によるが,当社が関与したサービスが近々に始まる予定である(編集部注:NTTPCコミュニケーションズがMVNOとなり,NTTドコモとの相互接続によるリモート接続サービスを10月10日に開始した。同サービスでは日本通信から調達したZTE製端末を利用している)。
このほか,NTTドコモのネットワークを当社経由で利用するサービスも数カ月以内に始まる。
データ通信だけでなく,音声通話サービスを提供する予定は。
あくまでデータ通信が中心だ。音声通話サービスの要望があればオプションとして提供することは考えている。要望ベースで回線交換方式もVoIP(voice over IP)方式も提供する。VoIPには実際に要望があり,数十台規模で実験を始める準備をしている。
来春にはNTTドコモとの間で,現在のレイヤー3接続に加えてレイヤー2(L2)接続が実現する。
レイヤー2接続になれば当社から端末に対してIPアドレスを直接割り当てられる。例えばNTTドコモの3Gと無線LANをセットで提供してシームレスに切り替えたり,固定と移動を連携したFMC(fixed mobile convergence)サービスを提供したりできる。本命はレイヤー2接続になる。
>>後編
三田 聖二(さんだ・せいじ)氏
(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2008年9月16日)