机の上にパソコンは不要――。米国のX2テクノロジーズはクラウド上にパソコン機能を集約し,それをシンクライアントの形態で利用できるサービス「AirPC」を2009年に開始する予定である。ブロードバンドとモバイルの環境が発達している日本でも,通信事業者やISPと組んでサービスを提供することを狙う。サービスの狙いや今後の戦略を同社の幹部3人に聞いた(写真1)。
どんなサービスを提供するのか。
ケーブルテレビ事業者のサービスを想像してほしい。ケーブルテレビ事業者は,契約したユーザー宅にセットトップ・ボックス(STB)を設置する。STBが壊れたときには電話をかければ,センター側の問題なのか,STBの問題なのかを切り分けて対処する。見たいチャンネルを増やしたければ,やはり電話1本ですぐに増える。契約を解消したときには,STBを引き取りにいく。
同様にAirPCでは契約した企業やユーザー宅にシンクライアントの端末を設置し,ブロードバンド回線を通じてシンクライアントのサービスを受ける(写真2)。
また,チャンネルを増やすかのようにCPUパワーやソフトウエアを増やすことができる。例えば,米マイクロソフトのOfficeや米アドビのイラストレータを1カ月間だけ使いたいとか,1回だけ使いたいといったニーズに応える。そのとき,CPUパワーが足りなければそれも使える。契約が解消すれば端末を返却してもらう。
そもそもマイクロソフトやアドビは月額や回数ベースの契約を許すのか。
守秘義務契約があって詳細は言えないが,マイクロソフトとはそうした契約が締結できている。アドビはまだだが誠意をもって交渉しているところだ。
ユーザーにとってのメリットは。
それは明らかだ。もはやユーザーはパソコンやソフトウエアを買い換える必要がなくなる。現在は,Windows 2000,XP,Vistaと世代が変わるごとに高スペックのハードウエアを必要とする。パッチの適用やアプリケーションのインストールのたびにパソコンの動作はどんどん遅くなる。我々のサービスなら,CPUパワーが足りないならこちらで追加する。ユーザーはパソコンの買い替えに悩む必要はなくなる。
アプリケーションのインストールも同様だ。セキュリティ・パッチの適用やバックアップなどはこちらで実施するのでユーザーはこうしたことに頭を悩ますことがなくなる。
企業にとっては,情報漏えいのリスクは低くなるのが大きい。ファイアウォールの設置やデータの暗号化などを十分に我々の側で施しているからだ。
データセンターとユーザー宅が遠いとネットワークの遅延が問題になりそうだ。
確かにその通りだ。そこで,パソコンのデスクトップ環境を提供する部分をユーザーのもっとも近い場所に置く。一方でデータは遠いデータセンターに置く。ユーザーの使い方を見ながらデータを先読み(キャッシュ)することで,距離の問題を解決できる。
ISPや通信事業者が我々のサービスを提供するようになればこうした問題は解決できる。既に日本のこうした会社とサービス提供に向けて話し合っている最中だ。
YouTubeのような動画はどうか。
今のところ少しガタついてしまう。今後,画面転送プロトコルを改良し,映像データであってもスムーズに動くようにしていく。
長編ビデオの再生のような使い方であれば,既に解決策を持っている。ビデオを再生するとき,通常のシンクライアント画面で再生するのではなく,サーバーから直接,シンクライアントに映像を配信する。パソコンの画面転送とは別に独自の映像配信技術を使えるため,スムーズな映像再生が可能だ。ただし,パソコンのデスクトップ画面経由ではなく,別の映像チャンネルで提供する形になる。
同じビジネス・モデルで他社も簡単に参入できそうだが。
技術的に簡単に真似できるかどうかは,何ともいえない。しかし,このサービス形態に関する特許を我々は持っている。もし,他社が同じようなサービスを提供するなら,売り上げの10%の料金を特許料としていただくことになる。
今後の予定は。
サーバーに蓄積しているデータをさまざまなデバイスから利用するようにしたい。そのために現在,家電機器メーカーと交渉中だ。例えば,パソコンで取り込んだ音楽や映像を,携帯電話網経由で音楽プレーヤに配信することが考えられる(写真3,写真4)。日本のような無線通信が国土の隅々までいきわたっている場所ではこのソリューションは現実的だろう。
電波の不感地帯はあると音や映像が途切れないか。
キャッシュ技術で解決できる。ユーザーが再生しているデータを先読みすれば,音の途切れはなくなる。また,フラッシュ・メモリーもMバイト単価がどんどん下がっており,キャッシュ用メモリーを大量に持つことが可能だ。