>>前編
今後はどのようなスケジュールで,いつごろに新gTLDを申請できるようになるのか。
最大の関門は,ICANNがDRPを確保できるかどうかにあると考えている。これがうまくいけば,その先の時間はそう延びない。実施案のドラフトや最終版の作成と承認というプロセスが,スケジュール通り進むだろう。ICANNのスケジュール表を見ると,DRP確保から募集開始まで7カ月かかることになっている。この数字はあまり動かないだろう。
9月に決まったとすれば,来年の4月ごろには審査が始まることもあり得るのだろうか。
そうなるかもしれない。DRPを確保するには3~4カ月,あるいは半年ぐらいかかるだろう。とすると1年後ぐらいに募集が始まることになる。
その準備は大変なはずだ。新規事業を始めるのに,資金計画や投資プランを作って,人を確保するのでは1年で間に合わないだろう。だから新gTLDの応募に申し込みたい,あるいはレジストリ事業を始めたい企業は,もう準備を始めないといけない。
テレビなどの広告では,キーワードを検索エンジンで検索させてサイトに誘導する例が増えている。ユーザーがURLを意識しなくなった今,新しいgTLDで一獲千金というモデルは成り立たないのでは。
レジストラ事業をやっている人たちは,意外とたくさんいる。レジストラを続けながら,レジストリになるチャンスを狙っている企業もある。そういう形でレジストリをやりたい人は根強く残っていると思う。
確かに検索エンジンを使ってサイトに行く時代だから,レジストリ事業をしてももうからないかもしれない。けれども,このビジネスをやりたい人たちに参入できる機会を作ってから,やっぱりもうからないという実績がないと,この騒動は収まらないと思う。
gTLDのレジストリがほかと差異化できる要素は結局,文字列しかない。文字列にどういう魅力的なものを選ぶか以外に,効果的な方法はない。多くは失敗して事業撤退を余儀なくされるということが起こるだろう。今度の第3ラウンドが始まれば,これまでレジストリ事業参入を待ち望んでいた事業者がどっと申請を出すだろう。そして1996年以来の「gTLD騒動」は終息すると予想している。
逆に,まだサイバー・スクワッタのような動きをするところもあるのか。
もうかるかは別として,サイバー・スクワッティングを試みる人間は後を絶たない。この状況の下,ブランド名や会社名を守るやり方はいろいろある。
ある会社はあらゆるTLDに目を光らせており,社内にはそれ専門で担当している人がいるほどだ。社名の文字列を含んだドメイン名を労力をかけて片っ端から調べ,その対象を各国のccTLDにまで広げている。
この会社とは別に,「.com」と「.info」だけは見るけれど,ほかは全部無視するといったポリシーのところもある。
TLDの種類が少なかった昔に比べると,チェックする企業も占有する側も,きりがなくなったのでは。
別のある会社は,すべてのTLDに目を配るのが面倒だから,gTLDを新設しないでくれと,ICANNの場で公式に発言している。
ただこうした発言はgTLD新設を止めるほどの効果はない。
どのくらいの登録数があれば,そのgTLDは成功したと言えるのか。
追加されたgTLDの中では,2008年3月時点で約500万登録がある「.info」が一番成功したと言える。約200万登録の「.biz」も成功の部類に入る。「.mobi」は約90万,「.name」は約30万,「.travel」も約20万はあるから,それなりのビジネスになったと言えるだろう。登録数が約500の「.museum」,約8000の「.pro」,約6000の「.coop」では商売は成り立たない。
レジストリのビジネスは数で稼ぐ商売で,スケール・メリットがある。10万登録だと年間でたった6000万~7000万円。100万登録ぐらいないと「もうかった」とはならないが,1000万登録になると大もうけになる。
今後,どのくらいのgTLDが成功するだろうか。
あくまで勘だが,いいところ5~6個ではないだろうか。
丸山 直昌(まるやま・なおまさ)氏
(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2008年7月29日)