![[前編]次世代システムを大胆に見直し,当初計画より投資を200億円削減](tit_interview.jpg)
コンビニエンスストア大手のローソンがIT戦略を大きく見直している。構築中の次世代システムはシステムのアーキテクチャやベンダーマネジメントのやり方を改め、投資額を1000億円から800億円に下げた。併せてIT部門の体質改善にも挑み、経営への貢献度を高める。一連の改革を主導する横溝陽一CIO(最高情報責任者)に狙いを聞いた。
CIOに就任してからの1年余りで、IT戦略を大きく見直したそうですね。
はい。システムのアーキテクチャから、ベンダーとの付き合い方やシステム部門の仕事のやり方まですべてを変えようとしています。進行中のプロジェクトもいったん止めて、おかしいものは改めました。ある意味、全部をひっくり返す意気込みです。
なぜ変えたのですか。
新浪(剛史社長CEO=最高経営責任者)がITに不満を抱いていたからです。ハードの価格が下がっているのに、構築を進めていた次世代システムの構築費は上がっている。その割に、ビジネスの変化にシステムが対応できていないのではないかと。
そこで「自分の片腕としてCIOをやってもらいたい」と話がありました。当時、私はi2テクノロジーズに籍を置いていましたが、元々は(ローソンの筆頭株主である)三菱商事出身。三菱商事がローソンに出資を決めた前後にグループ会社のサプライチェーン改革やITを使った新規事業創出に携わった経験などを評価していただき、呼んでもらいました。
コンビニエンスストアはシステム産業。当社にとってITは非常に大事です。ただ気をつけないと、IT予算がすぐに肥大化してしまう。POSレジを入れ替え、KIOSK端末を入れ替えるとなると、すぐに1店舗当たり100万円ぐらいかかってしまう。ローソンの店舗は8500ありますから、それだけで85億円です。
だからこそよほど脇を締めて考え方を整理しないと、お金がいくらあっても足りない。ITを武器にビジネスモデルをどう変革するか。こうした視点で取り組めば、同じ投資でも価値の生まれ方が変わるはずです。
システムコストを2割削減
改革の成果は出ていますか。

もちろんです。次世代システムは計画を大胆に見直しました。昨年1月に公開した当初計画では稼働後7年間に1000億円の投資を見込んでいましたが、これを800億円まで下げました。
まずシステムのアーキテクチャを見直しました。第三者にもレビューしてもらい、どちらかというとバッチ処理主体だったシステムをリアルタイム処理に変更しました。
これによりCPUの負荷が大きく下がります。それに伴ってハードとソフトのコストを減らせます。データセンターの利用料も減ります。積み重ねると、かなり大きなコスト削減になります。
ベンダーとの付き合い方も変えました。これまでは特定のシステムインテグレータに関連ベンダーのとりまとめを一任していました。これを改めて欧米のハード/ソフトベンダーとも我々が直接交渉するようにしました。月に1度は関連ベンダーの幹部と私が話し合う場を設けました。やはり直接話さないと、技術のトレンドとか、その会社の状況が分かりませんから。
いろいろと無理を言いましたが、インテグレータには辛抱してもらいました。だけど、こっちがしっかりしないと、結果としてインテグレータにも迷惑をかける。こっちの要件が決まっていないために、スケジュールが遅れたり、手戻りが発生して失敗するプロジェクトはよくありますから。
要はITベンダーとユーザー企業の間で「Win-Win」の関係を築こうというわけです。ITベンダーにいた当時、うまくいかないプロジェクトは嫌というほど体験しました。だから逆にこうすれば、成功するというポイントも分かるのです。
もう一つ、契約の形態も変えました。一例を挙げると、これまではアプリケーションごとに様々なベンダーからサーバーを調達していましたが、これを1社に集約しました。ミドルウエアもライセンスをまとめ買いすれば、有利な条件で契約できます。
一方で、お客様や店舗オーナーへのサービスレベルを上げるためのITには投資を惜しみません。まだ詳細はお話しできませんが、品切れを防ぎつつ廃棄ロスを減らすよう顧客起点で発注の仕組みを改革します。
今年12月にKIOSK端末「Loppi」を導入するのを皮切りに、POSレジやストアコントローラなどを全面的に変えます。仕事のやり方も大きく変えます。お客様にご満足いただくとともに、店舗のオーナーやスタッフが元気になる仕組みを作ります。
>>後編
横溝 陽一(よこみぞ・よういち)氏
(聞き手は,桔梗原 富夫=日経コンピュータ編集長,取材日:2008年7月22日)