[後編]CIOの「I」はイノベーション,ITを使って「元気になろーソン!」

>>前編 

各ベンダーと直接交渉すると、IT部門の負担が増えます。

 「ここのIT部門は手強いぞ」とベンダーに思われるぐらいにならないと、良い提案は出てきませんよ。私もベンダーの側にいたからよく分かっています(笑)。

 着任以来、IT部門のスタッフには「経営と同期するIT部門になろう」と訴えてきました。社内ブログなどを通じて意識の変革を呼びかけています。スタッフの意識が変わらないと、使われるシステムはできませんから。

 IT部門はシステムを作ることではなく、結果を出すことに責任を持つべきです。今まではどうしても先進的な2割のユーザーのことを考えてシステムを作っていた。結果として大半のユーザーが使いこなせなくても、ユーザー部門の責任といって逃げていた。今後は2割の先進ユーザーと6割の主流層を対象にプロジェクトを進めます。

 24時間365日コンビニのフランチャイズビジネスを支えるのも大事ですが、それに加えてITをてこにしたビジネス革新にもIT部門は取り組みます。今回の次世代システムを構想するに当たって、外部のコンサルタントをかなり活用しました。でもコンサルタントは往々にして素晴らしい絵をまとめてくるので、部員がそれに頼り切りになってしまう傾向があった。

 やはり社内のスタッフが自分の頭で考えないとダメです。バランスの取れた右脳と左脳を持ち、構想力と実行力を兼ね備えたしたたかな人材に早く育ってほしい。当社の経営課題に片足を置き、もう片足をITに置いてIT施策を自分で考えることで、経営を変革するIT部門への進化が始まります。ITというのは5年もするとパラダイムが完全にシフトする。例えば、少し前のクライアント/サーバー時代の常識は、インターネット時代には全く通用しなくなった。そうした変化を見すえてシステムの基盤を作り込んでいく意気込みがIT部門には求められています。

経営と同期するIT部門

 今までのIT部門はややもすると受け身で経営層やユーザー部門に「こんなシステムを作れ」と言われてから動いていた。これでは経営の信頼は得られません。

 人間は自分で一つの方向でやってみて成果が出れば、自信を持って次に進もうと工夫します。人間の創意工夫の力はものすごい。

 だから私はみんなに「自分の頭で考えてやろうよ」と呼びかけています。ある意味、DNA(遺伝子)の変革ですから、当然、時間はかかります。3年くらいのスパンで変革できればと考えています。

自ら経営に提案

経営との距離感は変わりましたか。

横溝 陽一(よこみぞ・よういち)氏
写真:小久保 松直

 CEOとはかなり密接にコミュニケーションを取っています。かといって毎日、CEOとCIOが会話すればよいというものでもない。新浪(社長CEO)も忙しいので毎週とはいきませんが、適宜時間を取ってもらってIT戦略の方向性を話し合っています。

 もっと言えば、CIOは経営課題を常に意識して、経営課題を解決するIT施策は何かを自分から経営に提言すべきではないでしょうか。提案したIT施策が経営施策に発展するようになれば、CEOとCIOの関係も自然とよくなるはずです。

 CIOの「I」はITやIS(情報システム)の「I」ではない。Information(情報)やIntelligence(情報価値)、そしてInnovation(革新)の「I」にすべく努力しています。

 もう一つ今年2月から「IT戦略会議」という集まりを隔月で始めました。CEO以下、COO(最高業務責任者)やCFO(最高財務責任者)などの経営幹部が一堂に会して、経営にとって必要なITの施策は何かや施策の実行状況を話し合います。IT投資の方向性もここで決めます。

 こういう場があると、こちらも「次は何を議題として報告しよう」と常に考える。そういうコミュニケーションや合意形成の場をいろいろな形で持てば、お互いにとって良い関係が築けるはずです。

コンビニ業界では最大手セブン-イレブンの戦略を2番手以降が追随する構図が続いていました。

 そうした図式を変えていきたいのですよ。3年ぐらいたったときローソンは同業他社と全く違うオペレーションとか、仕事のやり方を実現したいと考えています。

 もちろん競合他社の動向は経営課題として注視していますよ。ただ、当社のコアコンピタンスをもっと磨き、様々な出店形態をサポートする仕組みが必要です。もっとITを駆使して仕事のやり方を変えれば、十分に可能と考えています。

 ITを使って「元気になろーソン!」の実現を加速させます。お客様や店舗オーナーに選んでもらえるローソンを作り上げます。

ローソン 常務執行役員 CIO
横溝 陽一(よこみぞ・よういち)氏
1979年3月、慶応義塾大学工学部機械工学科修士課程修了。同年4月に三菱商事に入社。1986年7月、米MITスローンスクール経営学修士課程を修了。米ベンチャーキャピタルへの出向を経て、グループのIT関連事業展開に携わる。2000年以降はサプライチェーン改革などにも参画。2002年5月、米系ソフト会社i2テクノロジーズ・ジャパンに転じ、社長に就く。2007年4月、ローソンに入社。同年7月、CIOに就任。1955年2月生まれの53歳。

(聞き手は,桔梗原 富夫=日経コンピュータ編集長,取材日:2008年7月22日)