米ガートナー バイスプレジデント ジェス・トンプソン氏
米ガートナー バイスプレジデント ジェス・トンプソン氏
[画像のクリックで拡大表示]

2008年に入り、BPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)とBRM(ビジネス・ルール・マネジメント)製品を提供するベンダーのM&A(合併・買収)が相次いだ。BPM製品では米オラクルが米BEAシステムズを買収、BRM製品では米IBMがフランスのアイログを買収した。こうしたベンダー動向をユーザーはどうみるべきか。米リサーチ会社のガートナーでミドルウエアベンダーのテクノロジと製品戦略を担当するジェス・トンプソン バイスプレジデントに聞いた。(聞き手は矢口 竜太郎=日経コンピュータ)

ガートナーはビジネスプロセスとビジネスルールをアプリケーションの外で管理せよと主張している。具体的にはどういうことか。

 アプリケーションの歴史をひも解くことで理解が進むだろう。これまで共通機能をアプリケーションの外に出すことにより、開発効率を高め、より高度な処理を可能にしてきた。まずハードウエアの管理機能をOSとして外に出した。その後のアプリケーションは「データ」「ビジネスプロセス」「ビジネスルール」「サービス」の4つの構成要素から成り立っていたといる。この場合、アプリケーションの内部では4要素が渾然一体としていた。

 そこからまず、データをアプリケーションの外で管理するようにした。DBMS(データベース管理システム)の登場がそれだ。現在は徐々にビジネスプロセスをアプリケーションの外に出したり、ビジネスルールを外に出す企業が現れた。そのために必要なミドルウエアをそれぞれ、BPMS(ビジネス・プロセス・マネジメント・システム)、BRMS(ビジネス・ルール・マネジメント・システム)と呼ぶ。将来的にはBPMSとBRMSの両方を導入することで、アプリケーションは単機能しか持たないサービスだけになるだろう。そのサービスの組み合わせによって一つのアプリケーションを構成するようになる。

ビジネスプロセスやビジネスルールをアプリケーションの外に出すと、具体的にどんなメリットがあるのか。

 まず、アプリケーションの変更個所を極小化できる。ビジネスプロセスを外に出せば、顧客や商品といった個別の事情により、ビジネスプロセスを変更したり、複数のビジネスプロセスを用意したりすることが簡単になる。ビジネスルールも同様だ。アプリケーションのほかの箇所を変えることなく、ビジネスルールだけを変えることができる。

 さらに、それらの変更はITの担当者ではなくビジネスの担当者が実施できるのが特徴だ。これによりさらに変更スピードを早めることができる。例を挙げよう。ある金融機関はローンをインターネットで受け付けることにした。しかし、ローンの種類は毎日のように追加や変更が必要だった。ビジネスプロセス自体はほとんど変更ないにもかかわらずである。ローンの種類に変更があるたびにプログラムを改変していては追いつかないので、BRMSを導入した。BRMSはローンの種類をビジネスルールとして登録し、その変更はビジネスの担当者が実施している。

BPMSは徐々に一般的になりつつあるが、BRMSというのはまだ聞き慣れない用語だ。

 ビジネスルールの定義、分類、ガバナンス、展開などをビジネスのライフサイクル全体にわたって導くためのミドルウエア製品、もしくは製品群だ。ガートナーでは、「ルール実行エンジン」「ルールIDE(統合開発環境)」「ルールテンプレート」「ルールリポジトリ」「ルールモデリングとシミュレーション」「監視と分析」「ルール管理」の7つの機能を持つものと定義している。

 同様にガートナーではBPMSを10の機能を持つものと定義し、BRMSはそのなかの1機能と定めている。つまり、BRMSはBPMSを構成する一要素だ。ただ、重要な要素であるためガートナーではBPMSと並べて説明することがある。

 BRMSのなかで主要な機能は「ルール実行エンジン」と「ルールIDE」。BRM(ビジネス・ルール・マネジメント)製品の主要ベンダーはそれらの2機能を必ず持っている。しかし、7つの機能すべてをそろえているベンダーは多くない。

この数年、BPMS、BRMSを提供しているベンダーのM&Aが相次いでいる。ユーザーにとっての影響をどうみるか。

 ハッピーになったユーザーとそうでないユーザーがでてきた。最もハッピーなのは、旧ウェブメソッドのユーザーではないだろうか。旧ウェブメソッドは財務的に不安定だったが、より経営的に安定しているソフトウェアAGに買収されることにより安心したと思う。

 旧BEAシステムズのユーザーは今後、さまざまな選択を迫られることになるかもしれない。買収したオラクルのミドルウエアには、旧BEA製品と完全に機能が重なるものが多数あるからだ。オラクルはアプリケーション・ベンダーを買収した際にすべての製品を残したが、ミドルウエアでは別。取捨選択を余儀なくされた(本誌注:関連記事)。旧BEA製品がそのまま残った場合もあるが、中長期的にオラクル製品に統合していくものも少なくない。「BEA AquaLogic ESB」などがそうだ。

 ただ、AquaLogic ESBのユーザー数は全世界的でもせいぜい50社程度とみられるので、市場的にはそれほど大きなインパクトではないと思う。