写真●米インテルのパンカジ・ケディア氏。手に持つのはMIDのモックアップ
写真●米インテルのパンカジ・ケディア氏。手に持つのはMIDのモックアップ
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 インターネットが企業の業務や社会生活に浸透したことを背景に、パソコンを含めたコンピュータ機器もネットを意識して、機能や仕様の多様化が進んでいる。インテルは2008年春に新型プロセサ「Atom(アトム)」を投入した。処理性能をやや低めに抑えた代わりに、小型化・省電力化したことが最大の特徴。外に持ち歩き、インターネットを使うことを意識した超低価格ノートPCや、より携帯性を意識した新しいモバイル機器「MID(モバイル・インターネット・デバイス)」、そして組み込み用途を狙ったものだ。

 Atomは2008年7月にウィルコムとシャープが出荷開始したモバイル機器「Willcom D4」に採用されているほか、松下電器産業が2008年10月から出荷する業務向け小型PC「TOUGHBOOK CF-U1」にも採用される計画だ(関連記事)。これらの機種は通常のパソコンと同じようにWindowsが稼働するが、携帯性やインターネット利用をより重視した設計になっている。

 MIDについては期待の声もあれば、懐疑的な眼を投げかける向きもある。「これまでのPDA(携帯情報端末)と変わらない」、「携帯電話でもインターネットは見られる」といった具合である。特にPDAは長い歴史があるものの、小型化するパソコンと高性能化が進む携帯電話の間に挟まれ、市場が広がっていない。

 これに対して米インテルでMIDの企画とマーケティングを手がけるパンカジ・ケディア氏は「外でフル・インターネットが見られる機器は、卓上電話機が携帯電話になったのと同じ程度のインパクトが起きるはずだ」と強調する。ケディア氏に、インテルがMIDで切り開こうとしているコンピューティングの未来像を聞いた。

(聞き手は高下 義弘=日経コンピュータ


インテルはAtomでどんな市場を切り開こうとしているのでしょうか。

 ちょっと前の調査データですが、2004年にインターネット・ユーザーは5億人に達したそうです。地球の全人口が約65億人と考えるとまだまだかもしれませんが、それでもすでに5億人がネットにアクセスしているという事実は驚きだといえるでしょう。

 今のところ、基本的にはみなデスクトップ型のPCかノートブック型のPCでアクセスしています。そこでインテルが世界のPCメーカーと一緒に考えたのは、「外出先で気軽に、PCと同じようにインターネットができる環境を用意したら、世界はどうなるだろう?」というテーマです。

卓上電話が「ケータイ」になったのと同じ衝撃を

 もちろん、携帯電話やPDAにもWebブラウザは搭載されていて、インターネットにアクセスできる環境は整っています。

 ただ、基本的にはそれは携帯電話やPDA用のブラウザなんです。やはり、見え方や操作感はPCのそれとは違う。

 携帯電話はあくまで会話するために設計されたデバイスです。PDAも、Webというよりはスケジュール管理をはじめとした個人情報を処理するためのデバイスです。つまり、これまで外出先でインターネットを使うために設計されたデバイスはなかった。

 MIDはWebを見るために設計された専用デバイスなんです。もちろん各社のMIDは、Webブラウジング以外の用途に向けても工夫が凝らしてあります。例えばカーナビメーカーのクラリオンによる試作MIDには、ナビゲーション向けの機能がついています。それでもMIDの「外出先でのフル・インターネットを実現する機器」というコンセプトは、変わらず埋め込まれています。

 私たちはMIDで、卓上電話が「ケータイ」になったのと同じインパクトが起こせると思っています。昔は、線につながれた卓上の電話機しかありませんでした。それが携帯電話に変わったことで、人々の働き方や生活スタイルが大きく変わりました。

外出先で情報を確認する程度であれば、携帯電話のWebブラウザで十分、という向きもあるかもしれません。グーグルは携帯電話向けにパソコン用Webページの変換サービスも提供しています。「Webサイトを外で見る」というニーズがそこまで大きなものだろうかという疑問の声もありそうですが。

 確かに携帯電話でもPCと同じWebサイトにアクセスできますが、PCのWebブラウザよりも使いにくい。この操作感の違いはユーザーの大きなフラストレーションを引き起こしています。だからこそ私たちは、外出先で、いつでもどこでもPCと同じWeb体験ができる機器を作り出したかったのです。

 今、多くのネット・ユーザーは、「YouTube」の動画を見て、「MySpace」や「Facebook」といったSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)にアクセスして他のユーザーと交流しています。加えて「Gmail」や「Google Docs & Spreadsheets」をはじめ、アプリケーションのWeb化がどんどん進行しています。WebブラウザとWebサービスが生活に浸透してきた今だからこそ、MIDのような機器は大きなインパクトがあると確信しています。

 たまに日本に行くと、町を歩く人の姿に驚きます。携帯電話を耳に当てて話している人もいますが、それよりも携帯電話をのぞき込んでキーを打っている人の方がずっと多い。私たちは、彼ら彼女らはすでにMIDの潜在的なユーザーだととらえています。

 むしろ私たちが注目しているのは、ティーンエイジャーや20歳代などの若いユーザー層です。彼ら彼女らは物心がついたときにはデジタル機器が周囲にあり、ネットを生活の道具としてまったく違和感なく使っています。そうした若い世代が社会に進出し、購買力や発言力を増してきたとき、MIDの市場性と真価はますます大きく表れると確信しています。