>>前編
サーバーで「選択と集中」も
この3月に半導体事業を分社化しました。
富士通の本業はソフト・サービスです。本当に強い部分もソフト・サービスだと考えています。
ここ数年、ソフト・サービスをいかに強くするかをずっと考えてきました。2007年度に2000億円を超える営業利益を出せたのは、その成果です。
どうやったら本業の利益を積み上げられるのか。さらに収益を安定的に確保するにはどうすればよいのか。ここに経営の優先度を置くべきです。
昨年、黒川は「2009年度に連結営業利益率5%超」の経営目標を掲げました(本誌注:07年度は3.8%)。半導体もそうですし、ハードディスクドライブ(HDD)やパソコン、携帯電話といった本業以外の事業は、5%達成にどう貢献できるかで先行きを考えます。
仮にある事業が大きく足を引っ張って、全体の利益率が2~3%に落ち込んだとしますよ。そのときは、その事業をどうするかを考えます。逆に全体の数値目標に大きく貢献している限り、「選択と集中」は必要ない。儲かっているものを選択しても仕方がないからね。
もちろん別の見方もある。「今は儲かっていても将来の成長が見込めないなら今のうちに清算しろ」と。
それについては、各事業のトップが経営判断すべきと認識しています。富士通はそれぞれの事業を一番よくわかっている人間が経営を見る体制をとっていますから。
サーバー事業はどうしますか。
確かにサーバー事業の利益率は、ソフト・サービスに見劣りします。しかもコモディティ(日用品)化が進んでいるので、プロダクトだけで収益を上げるのがきわめて難しくなっている。
当社のビジネスモデルでサーバーの収益を上げるには、やはりソフト・サービスのなかに位置づけないと。サーバーは目に見えないソフト・サービスをお客様に形として示す器です。サーバーだけを取り出して議論するのではなく、一歩進んで考えます。
ただサーバーのラインアップは、お客様や市場のデマンドに近づけていきます。これまでは選択肢を多く持っていたほうが資産価値が大きかった。ですが、今後はおのずと収束していくと思いますよ。
はっきり申し上げて、選択と集中の時期が来るでしょう。それはそんなに先ではない。ものすごくスピードは速いと思いますね。
これからの競争環境を考えると、ヤフーやグーグルが我々の競合になります。家庭にあるパソコンは処理能力が不要になり、アプリケーションはネットの向こう側で動く。そういう時代を我々自身が覚悟して、競合とどう戦っていくか。必死で考えています。
海外展開を加速
2007年度の海外売上高比率は36%。09年度にはこれを40%以上に引き上げる目標を掲げています。
写真:菅野 勝男 |
日本のIT市場の成長率は2%未満。年率6~7%伸びる欧米や二ケタ成長のBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)に比べて大きく見劣りします。となると企業が成長するためにグローバル化は避けて通れません。
当社は昔から世界に積極的に打って出ていた。日本のIT企業のなかでは最も経験豊富なんじゃないかな。
一朝一夕に今のビジネスモデルが出来上がったわけではありません。旧ICL(現富士通サービス)と提携が始まったのは1981年。それから富士通が完全子会社化し、今のように収益に貢献するようになるのに20年以上かかった。
富士通サービスのビジネスモデルは非常にシンプルです。データセンターを使ったアウトソーシング事業を大規模に展開しています。顧客はイギリスの公共部門が中心ですが、今後は民需に展開したり、英国以外の欧州に広げたりしていきます。
現場を知らない“内務官僚”と野副さんを評する向きもあります。SEや営業の舵を上手に取っていけますか。
大丈夫ですよ。一人ですべての舵を取るわけではありませんから(苦笑)。
ビジネスはどんどん多様化しています。アジアがあり、米国があり、欧州がある。事業分野もサービスあり、プロダクトあり、プロダクトとサービスを一緒にしたソフト・サービスがある。このすべてを一人の人間が理解することなんてできませんよ。
幸いにして社内は多士済々。そういう人間とチームを組んで、経営課題を乗り越えていこうと思っています。
ただ、決断するのは私の役目。そのスピードは上げていきます。
「内務官僚」と言われたほうが好都合かもしれないね。官僚的にバンバンやってスピードを上げるには。どうやら楽天的な性格なので、何ごとも良いほうに考えています。
(聞き手は,桔梗原 富夫=日経コンピュータ編集長,取材日:2008年6月10日)
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