「当社の本業はソフト・サービス。ここを引き続き強化して営業利益率5%を達成する」。6月23日付で富士通の社長に就任した野副州旦氏に迷いはない。一方で「本業以外の事業が足を引っ張る場合は決断も必要」と明言。そう遠くない時期に事業領域の見直しに取り組む決意をのぞかせた。
歴代の社長はみな技術者出身。渉外畑の野副さんは異色です。野副色をどう打ち出しますか。
自分のカラーみたいな大それたことは、あまり考えていませんよ。黒川(博昭前社長)からは、「思い切ってやれよ」と言われてますけど。
黒川が社長になった当時、富士通の経営は(2期連続で1000億円超の最終赤字を計上するなど)最悪の状況。経営の立て直しに最優先で取り組むなか、私は本業のソフト・サービスの強化を任された。
まずはこのときに実行してきたことの延長かな。とにかく利益重視で「強い会社」にしていきたいとの思いはあります。
顧客の懐に入り込む
「強い会社」というのは定性的でわかりにくいけれど、私は三つの視点があると考えている。
やはり最初はお客様。従来のようにITだけを提供するのではなく、経営や業務の課題を共有しながら、成長をお手伝いするパートナーになりたい。
ITソリューションの分野は単に技術だけでは競合他社と決定的な違いを出しにくい。それで価格競争に陥って利益を圧迫している。この種の競争にはあまり先がありません。
写真:菅野 勝男 |
だからこそ、もっとお客様の懐に入り込まないと。お客様のパートナーとして、価格で決まらない付加価値をきちんと提供する。そこで強さを発揮できれば、競合よりも圧倒的に有利に立てるでしょう。
次に株主の視点です。配当による株主への利益還元は大事ですが、それだけでは不十分。株主のことを考えながら経営の機軸を見直しているか、常に自省しています。
株主に「この会社を支援したい」「成長を助けたい」と思っていただいたとき、初めて「強い会社」になれる。そのために本業できちんと利益が上がる収益構造を築きます。
最後はやはり社員です。社員が誇りに思えるような「強い会社」にしていきたい。
ソリューションやサービスは人が財産。事業拡大にはM&A(合併・買収)もあるでしょうが、それよりも社内の人たちの教育が先決です。
当社には3万人を超える社員がいます。教育に相応の投資をすれば、時代に合った新しい人材が必ず生まれてきます。「人材開発は富士通が最高」と言われるようになりたいですね。
顧客のITだけではないパートナーを目指すということは、上流のコンサルティング部門を強化するのですか。
昨年秋から「フィールド・イノベータ」の育成を始めました。業務の課題や無駄をお客様の視点で洗い出し、変革を提案するスペシャリストです。
14~15年の実務経験者を選抜して、お客様の業務や経営の中身を可視化する技術を習得させます。生産管理や経理、購買などの実務経験に可視化の技術がプラスされれば、お客様の課題を浮き彫りにできるはずです。
課題だけじゃありません。お客様がもう一歩飛躍するためにどうすればよいのかがわかるようになるでしょう。それを人がやるのか、ITという一種の道具の利活用で補っていくのか。そういうことを語れる人材がフィールド・イノベータです。初年度は150人、今年度は200人を育成します。
黒川は2003年の就任以来、「お客様起点」を社内に徹底してきました。私も同じことを言っているだけじゃダメなので「お客様のお客様起点」だと言っているんです。お客様だってそのまたお客様のニーズを把握できていないと、どうITを生かせばよいかわからないでしょう。ですから我々も、例えば病院にシステムをお納めするなら、医師や職員と話をするだけでは不十分。患者の方が予約や会計に関して、どのような不満を持っているのかを理解しなければなりません。
フィールド・イノベータの活動を受けて、コンサルタントが人とITの分担を決めてソリューションに落とし込みます。次にSEがシステムを設計・開発する。営業は契約という形で内容をお客様と確認しあう。そういうチームで動いていく構図になると思います。
だからコンサルタントだけが優秀でもダメ。家と同じで設計は一流でも造る人が五流では、まともな家は建ちません。上から下までワンストップでお客様のニーズや要求を受けられるチームでないと、お客様に役立つシステムは作れません。
>>後編
(聞き手は,桔梗原 富夫=日経コンピュータ編集長,取材日:2008年6月10日)
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