
>>前編
音声サービスを始めた理由は。
携帯電話でデータ通信を使わないユーザーはいないはず。そして音声も当然使う。それならデータが定額で速いことを知ってもらい,その上でキラー・アプリケーションである音声を提供すれば,広範なユーザー層をターゲットにできる。日ごろ持ち歩く端末に電話がないと,それがデメリットになることもある。
音声サービスで既存の事業者と同じ戦法を採ったのでは,現時点では「どこでもつながる」点で太刀打ちできない。我々のビジネスモデルは,既存の携帯電話事業者とは逆。音声にデータ通信を付加するのではなく,ブロードバンドのデータ通信がベースでそこに音声を付けるというものだ。契約期間によるが,1000円または2000円の基本料をもらえれば,その無料通信部分も含めてデータ通信サービスとしては最安にしている。上限も4980円または5980円だ。音声は「補完的に,まずお試しいただく」スタンスで,音声通話の基本料はゼロにした。
音声によるARPUは,それほど期待していない。音声はコモディティ化が進み,ARPUはどんどん下がり破壊的なビジネスモデルになる。見るべきはやはりデータ通信。音声がないADSLもきちんとビジネスになっているのだから。
既に携帯電話を使っているユーザーが,データ通信を目的に利用するようになる。つまり2台目狙いということか。
2台目戦略と言われればその通り。携帯電話の普及率が100%を超える国もある中,日本は79.6%。飽和はしていない。
固定通信を見てもそうだが,音声はだんだん陳腐化してくるだろう。一方でデータ通信の割合は急激に増える。つまりモバイル・ブロードバンドの1台目戦略でもある。ADSLのときと同じように,これからモバイル・ブロードバンドの市場を作る。台数も明らかに増えていくだろう。既存の事業者のマーケットを食ってゼロサム・ゲームにするつもりはない。
端末戦略と法人戦略を教えて欲しい。
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写真:山田 愼二 |
端末戦略はノーコメント。2機種では少ない?種類を増やすのがいいことではない。このあたりの構造を根本的に変える必要がある。よく考えずに何機種も出すから,端末メーカーは赤字を作ることになる。こうしてかかった開発費のツケは消費者のところに行く。数が少なくても,それを多数売れるようなことを考えていくべきだ。
法人ユーザーは思った以上に増えている。法人部隊をしっかりと作り,どのように法人市場を開拓していくか考えていく。
一つの鍵になるのはMVNOだろう。例えば,インターネットイニシアティブ(IIJ)が当社のMVNOとして提供しているサービスは素晴らしい。技術力があり,定額のものを商品化して売る力がある。MVNOも付け焼刃では無理で,高い技術力を持つ企業によるMVNOがこれからの本命になるだろう。
今後モバイルWiMAXとはどうかかわるつもりか。
2007年の秋から,世界の趨勢(すうせい)はモバイルWiMAXではなく,どちらかといえばLTE(long term evolution)になってきている。現在W-CDMAを使っている陣営と親和性が高い。同じようなベンダーが次世代の規格として強く推進しているので,LTEの方が将来成長すると見ている。
米ベライゾン・ワイヤレスもAT&Tも英ボーダフォンも,世界の主流の通信事業者はWiMAXをやらない。昨年11月にニューヨークに行ったときに,「ベライゾン・ワイヤレスがWiMAXをやらない」という新聞記事を見て,うちの幹部にWiMAXの免許については慎重に進めるようメールで指示した。ただし総務省とのやり取りは,途中で止めるわけにはいかなかった。
結局,WiMAXをやるのは米スプリント・ネクステル。日本も2社あればまだ良かったが,KDDIだけ。これで明らかに潮目が変わった。
WiMAXは技術自体は悪くないが,勝敗を分けるのは技術ではなく,どれだけアライアンスを組めるかにかかっている。やはり世界の大手がいなくなったらダメなのだ。しかも2.5GHzくらい高い周波数は,投資もかかる。そんなにうまくいかない。
2.5GHz帯にはもう一つ,次世代PHSを入れたが,1国だけのシステムが生きるとは思えない。
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(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2008年3月3日)