【後編】時間はかかるが固定事業は重要 自前設備にも積極的に投資する

>>前編 

NTTグループが今年から次世代網「NGN」をスタートする。KDDIとしての次世代網はどういった戦略を立てているのか。

 今の時点では,モバイルを中心に置いて次世代網を考えている。そういう意味を込め,我々の次世代網は「ウルトラ3G」という呼び方にしている。

 ただ,将来的にはモバイルだけではないだろう。定まった未来像はないので,ウルトラ3Gは柔軟なネットワークにするというコンセプトで進めている。

 現在のNGNが抱えている問題は,ユーザーの立場からは新しいサービスが見えてこないことだ。本来,NGNもウルトラ3Gも事業者が外に向けて見せるものではなく,専門家の間で議論すればいい話だ。

 ただ,サービスを考えるとなると,KDDIだけで新事業を展開するのは難しい。そこで法人向けソリューションでは,ユニアデックスやマイクロソフトなどと組んでいる。まだ詳細は言えないが,2008年も同様の業務提携は増えていくだろう。

 特に今,広域イーサネットの次のステップは何かということが課題になっている。これは我々だけで考えるのではなく,ITベンダーやユーザーも含めた皆で考えなければならない。

ウルトラ3Gを進めていく中で,見えてきた課題は何なのか。

 一番大きいのは,アクセス系の問題だ。NTTのNGNにはNNI(network-network interface)で接続するが,1カ所だけで接続する考え方が基本になっている。我々はアクセス系だけを使いたいのに,これではNTTのサービス全体を取り込んだ形になってしまう。となると,高いコストをNTTに支払わないと接続できないことになる。

小野寺 正(おのでら・ただし)氏
写真:室川 イサオ

 20年前に当時のDDIが長距離電話に参入したとき,アクセス系への支払いは10%以下だった。具体的に言うと,3分300円の通話料のうち,NTTに支払っていたのはアクセス系の3分10円の両端分に当たる20円だった。

 しかしインターネットでは,NTTへの支払いに当てる額の割合が高くなっている。例えば我々のインターネット接続「au one net」でNTT東西のFTTH「Bフレッツ」を使うと,ユーザーの支払う料金は1カ月7528円になる。このうち72.5%の5460円はBフレッツ代で,我々の取り分は2068円しかない。

 しかもここからNTT局舎のスペース使用料や電気代を支払っている。これを計算すると,我々に入る額は,ユーザーが支払ったうちの十数%~20%くらいしかない。つまり,8割以上がNTTの取り分になっている。

 公平な競争のため,NTTのアクセス系を開放することは必要だ。それだけでなく,収入を高めたり事業の自由度を増すには,KDDIとしても自前のアクセス系の事業,設備を持つことも並行して進めなければならない。

それはKDDI自身が光ファイバのインフラ敷設に力を入れるということか。

 光ファイバにとらわれるのは短絡的だ。アクセス系は,モバイルWiMAXや携帯電話,ケーブルテレビもある。自社で所有できるものは所有しつつ,アクセス系事業を運営していく。

 ただし,光ファイバの方が有利な面はあるので,そのための手は打っていく。例えば東京電力の光ファイバ事業を引き継いだ関東圏は,我々自らが光ファイバを敷設できる。すべてをKDDIでコントロールできるので,コスト削減の努力も可能だ。

全国への展開はどうするのか。

 関東以外の電力系事業者とも話をしている。パワードコムや東京電力の光ファイバ事業との合併をした後,電力系事業者の組織であるPNJに参加して業務提携を進めている。その結果,アクセス系も含めて全くNTTに依存しない法人向けWANサービスの提供が可能になった。

 今は業務提携という形だが,将来的に電力系事業者とKDDIで一つにした方がいいという話になれば,一緒にやっていくのはやぶさかではない。

固定通信は既に,もうからない事業になっているようにも見える。

 ちょっと誤解があるのではないか。数字を公表していないが,KDDIの法人向け固定事業は黒字だし,メタルプラスも黒字を出している。赤字なのは個人向けのFTTH事業だけだ。

 FTTHの赤字だけを見て,固定事業が暗いと考えるのはおかしい。私は黒字化は時間の問題だと考えており,2010年までに固定事業を絶対に黒字に転換すると宣言した。損益分岐点となるユーザー数は分かっているのだから,あとはどうやってそこまでユーザーを増やすかという話だけだ。

 そもそも,アクセス系の固定事業がすぐにもうからないのは当たり前。電電公社が何兆円,何十兆円だかの金を使って電話のインフラを整備して,それが花開いたのが昭和40年代のことだ。インフラ整備に使ったお金だって,ユーザーから高額な設備設置負担金を取ってやってきた。それだけ,アクセス系は金と時間がかかる仕事といえる。

 今,一番頭を悩ませているのは,仮に電力系事業者と一緒になった場合にどうなるのかということ。FTTHをやっているところは別だが,どこも赤字を抱えている。事業統合をすればするほど黒字化までの時間が延びる可能性がある。

KDDI 代表取締役社長兼会長
小野寺 正(おのでら・ただし)氏
1948年2月3日生まれ。宮城県出身。70年3月東北大学工学部電気工学科卒業。同年4月に日本電信電話公社(現NTT)入社。84年2月にマイクロ無線部調査役。84年11月にDDI入社。89年6月に取締役就任。95年6月常務取締役。97年6月に代表取締役副社長。98年6月に技師長兼移動体通信本部長。2000年10月にDDIとKDD,IDOが合併した新生DDIが発足し,同社の代表取締役副社長に就任。2001年4月にKDDIに社名変更。同年6月にKDDI代表取締役社長に就任。2005年6月に同社取締役社長兼会長に就任,現在に至る。趣味は,音楽鑑賞と,愛犬と近所を1時間程度ウォーキングすること。

(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2008年1月16日)