世界の通信機器市場で大きなシェアを持つスウェーデンのエリクソン。2007年10月に新たに日本エリクソンの社長として,以前エリクソン本社でコア・ネットワークやIMS(IP multimedia subsystem)を担当していたフレドリック・アラタロ氏が就任した。アラタロ氏に2008年の通信業界の注目ポイントや2008年に向けて同社が力を入れる点などについて聞いた。

(聞き手は堀越 功=日経コミュニケーション



2008年の通信業界,特にワイヤレス分野のトピックとしてはどんなものが挙げられるか。


日本エリクソンのフレドリック・アラタロ代表取締役社長
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 ワイヤレスの分野では引き続きHSPA(high speed packet access)など,モバイル・ブロードバンドを実現する技術に注目が集まる。HSPAは現在,下り最大3.6Mビット/秒のサービスが主流だが,すぐに下り最大7.2Mビット/秒のサービスが広がるだろう。

 通信事業者のネットワーク内にも様々な技術革新が起きている。多くの事業者がネットワークの伝送路をIPベースに切り替えていくだろう。コスト効果が大きいため,急速にこの分野が拡大する可能性がある。

エリクソンはモバイル・ブロードバンドを実現する技術として,W-CDMAを高度化させた3.5世代のHSPAや3.9世代のLTE(long term evolution)を推進している。同じくモバイル・ブロードバンドを目指す技術としてモバイルWiMAXやCDMA2000事業者向けのUMB(ultra mobile broadband)などが存在するが,これらと比較したHSPAやLTEのメリットは何か。

 技術的には,LTE,モバイルWiMAX,UMBそれぞれにプラス面,マイナス面があるので,どちらがいいかという正確な比較は難しい。ビジネスの面から考えることが重要だ。今現在,世界的に見てW-CDMAやHSPAが多くの地域で展開されている。この点から見るとHSPAからスムーズに移行できるLTEは,規模のメリットを生かし,装置の価格や端末の価格が下げられる可能性がある。この点が,モバイルWiMAXやUMBと比較したLTEのメリットだ。我々は通信事業者にこのメッセージを伝えている。

世界的に見るとCDMA2000の技術を採用する事業者は少なくなってきている。CDMA2000を採用する事業者に対してエリクソンはどんな働きかけをしているのか。特に日本においては,CDMA2000を採用しているKDDIとの付き合いを今後拡大していくつもりはあるのか教えてほしい。

 大規模なCDMA2000事業者は現在,世界で3社しかない。米スプリント・ネクステルと米ベライゾン・ワイヤレス,それに日本のKDDIだ。

 ご存じのようにスプリントは,モバイルWiMAXに注力している。ベライゾンはLTEを採用する方向で動き始めている。考え方を明らかにしていないCDMA2000陣営の大手事業者は,KDDIしか残っていない。もちろんエリクソンとしては,KDDIがLTEを選択してくれればよいと思っている。仮にエリクソンがベンダーとして参加できなくても,KDDIがLTEを選んでくれれば,LTEを推すエリクソンとしてはとてもよい影響が出ると考えている。

日本エリクソンとして2008年に注力する分野は。

 我々にとってワイヤレスのアクセス・ネットワークは最も利益を稼ぎ出す分野だ。引き続きこの分野には注力していきたい。このほかグローバルなトレンドとして,通信事業者がオペレーションそのものをベンダーにアウトソースする傾向も出てきている。日本の通信事業者は,まだ自らがオペレーションする傾向が強いが,いくつかの事業者はアウトソーシング・サービスに興味を示している。日本でもこの分野を開拓したい。このほかIPTVなどマルチメディア・ビジネスについても注力していくつもりだ。