「グリーンITに取り組むことが,省電力によるコストメリットだけではなく,企業価値の向上につながる。こうした経営視点からの提案が,ベンダーには求められている」──。環境経営コンサルティングを手がけるNTTデータ経営研究所の村岡元司パートナーは,IT業界で徐々にグリーンITへの関心が高まっているものの,まだその足取りは確かなものではないという。グリーンITが本格的に普及するには何が必要か,情報システム部門とITベンダーの役割は何かについて村岡氏に聞いた。



NTTデータ経営研究所の村岡元司パートナー
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最近,グリーンITへの関心が高まっている。

村岡氏:IT経営と環境経営は似たところがあると感じている。日本のIT活用は,業務合理化やコスト削減といった観点で取り組むことが多く,どちらかと言えば管理的,守りの投資という傾向がある。これに対し,アメリカはビジネスを革新したり,顧客に提供するサービスの付加価値を高めるといった攻めのIT投資が多い。

 「環境」についても同じような傾向がある。日本の環境対応と言えば,どれだけ省エネを効果的に実施してコストを削減するとか,プロセスをいかに合理化して廃棄物を減らすかといった管理的な側面が強かった。企業価値を向上させる,あるいは競争力を高めるために,積極的に「環境」を活用しようという発想はあまりなかった。一部の先進企業,例えばトヨタがハイブリッド車のプリウスを開発して,「環境」を切り口に企業価値を高めたというケースはあるが,そう多くはない。

特に情報システム部門は,企業の中でも環境問題から遠い位置にあった。それがここにきて,グリーンITに対する意識が高まってきているのはなぜか。

村岡氏:ずばり温暖化問題だろう。人間の生産活動によって大量に排出されるCO2が地球温暖化をもたらしていることが科学的に実証された。これによって政府は,さらに厳しいCO2排出削減策を企業に求めていく構えだ。

 これまでIT機器によるCO2排出量は,産業界全体から見るとあまり比率が大きくなかった。しかし,この10年ほどの間に,エネルギーや鉄鋼など産業部門のCO2排出量は微減傾向にあるのに対し,IT機器の導入が進んだオフィスなど業務部門のCO2排出量は急激に伸びている。何らかの対策を講じないわけにはいかなくなってきた。

実際に,システムを再構築しようというITユーザーが,コストや業務効率という評価項目に加え,消費電力やCO2削減効果といった環境面の切り口を検討するケースは増えているか。

村岡氏:まだそれほど多くはないだろう。ほとんどの情報システム部門は,自社のサーバルームでどれほど電力を消費しているかを知らない。今,どれくらいの電力が使われているのかを可視化する仕組みを導入しない限り,情報システム部門の省電力への取り組みは加速しないのではないか。

 以前,一般家庭のCO2削減プロジェクトをNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と共同で手がけたことがある。そこでわかったことは,電力消費量を可視化する仕組み,すなわちモニタリングの重要性と,地域にコミュニティを作って省エネの工夫を共有すると効果が高いということだ。ただし当時は,CO2削減効果に比べてモニタリング機器が高すぎて,家庭のESCO(Energy Service COmpany)事業はビジネスとしては成立しないという結論になった。

同じことがオフィスでも言えそうだ。IT機器やデータセンターの電力消費量を可視化する仕組みを,ベンダーは早急に作っていく必要がある。従来,環境対策はコストがかかるという考え方が一般的だった。グリーンITも,何らかのインセンティブがなければ進まないということか。

村岡氏:「環境価値」にどれだけお金が流れる仕組みを作れるかにかかっている。省エネのIT機器を導入すると補助金がつくとか,税制面で優遇されるとか,政策で後押しすることが一つ。もう一つは,環境に投資することが企業価値を高めるという認識を業界の中で育てていく必要がある。

 例えばアメリカでは今,オフィスビルの格付けが流行っている。省エネや水処理設備などの整った「環境にやさしいビル」の認証を取ることが一つのブランドになっており,取得したビルには優良企業が集まってくる。証券会社のゴールドマン・サックスは「環境にやさしいビル」に入居していることをCSRレポートに書いてアピールしているほどだ。

 同じようにグリーンITも,例えば「グリーン・グリッドの認証を取ったデータセンターを使っている」ということがブランドになるようにしなくてはならない。

グリーンITに取り組むことが,省電力によるコストメリットだけではなく,企業価値の向上につながるという経営視点からの提案が,ベンダーには求められていると。

村岡氏:そう思う。当社としては,経営視点からのCO2削減対策,いわゆる「カーボン・マネジメント(低炭素経営)」のコンサルティングに商機があると見ている。

 従来から日本の製造業は,省エネやCO2削減に熱心に取り組んでおり,今は乾いた雑巾をさらに絞っている状態だ。社内で省エネ設備を導入してCO2を1トン減らすより,途上国でCDM(クリーン開発メカニズム)プロジェクトを実施して排出権を買った方が安上がりになることもある。費用対効果を見極めながら,コスト面と環境面とのバランスを最適化するのが「カーボン・マネジメント」だ。当社では年間10数件のCO2削減プロジェクトを海外で手がけており,顧客が低コストで品質の高い排出権を購入できるよう支援している。

 政府と企業は今こそ,グリーンITの旗印の下,業界の壁や一部企業の既得権益に捕らわれず,ビジネスにも環境にも大きなメリットをもたらす仕組みを作るべきだ。例えば物流部門の共同配送システムなどは,小売業者同士が個別にパートナーシップを組んで取り組むより,政府が旗を振って業界横断の物流最適化システムを作った方がはるかにCO2削減効果がある。これくらいダイナミックなことをしなければ,日本の温暖化問題は解決しないところまできている。