
ユーザー同士が所有する無線LANアクセス・ポイントを開放し合い,大規模な公衆無線LANサービスを目指すFON。スペインで始まり,ヨーロッパを中心にユーザー数を伸ばしている。FONを運営する英フォン・ワイヤレスは米グーグルが出資したことでも話題となった。来日したFONの創立者であるマーティン・バルサフスキーCEOに事業戦略を聞いた。
10月4日,英BT(ブリティッシュ・テレコム)との間で大型の業務提携を結んだと聞く。その背景と狙いを教えてほしい。
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写真:中島 正之 |
BTが私たちの株主となり,BTのWi-Fi(無線LAN)ルーターはFONのソフトウエアを搭載することになった。すでにBTの170万台のルーターにFONのソフトが入っている。今後6カ月の間で,さらに300万台が投入される。
この提携はFONの側から話を持ちかけたものだが,当然,BTにもメリットがある。
BTはルパード・マードック氏が経営するスカイや,リチャード・ブランソン氏が経営するヴァージンと激しく競争している。彼らとの差異化の要素としてFONが有効だと考えたわけだ。ユーザーはBTに加入すれば,世界中のFONを利用できるのでどこでもWi-Fiを使うことができる。その上,BTのユーザーが所有するルーターにはFONのソフトが入っているので,FONのルーター「La Fonera」を別途購入しなくて済む。
また,スカイやヴァージンのユーザーがFONのネットワークを使うなら,BTはそこからも収入を得られる。「エイリアン」(自身のWi-Fiルーターを他ユーザーへ開放せずにFONを使うユーザー)としてFONを利用すると24時間で3ユーロ(約492円)の課金となるが,これがBTの収益となる。
BTはすでにルーターを提供しているし,光ファイバやDSLなどの回線も持っている。BTに必要だったのは,BTに対してお金を支払ってくれる人同士がWi-Fiを共有できるようにする仕組み。言い替えれば,ユーザーを整理整頓するソフトウエアだった。今回,BTがFONとの提携で支払うことになった追加費用はごく小さなものだろう。
他国の事業者との提携状況は?
フランスでは「Neuf」という事業者と,BTと同じような提携を進めている。また,米タイム・ワーナー・ケーブルやポーランドの「Onet」,台湾の「CNS」といったDSLやケーブル事業者もFONのパートナーだ。通信事業者のパートナーは,1国1事業者と決めている。
他にも,まだ名前は出せないが,日本を含めて多くの事業者と提携の話を進めている。今回の来日も,日本の事業者とミーティングするためだ。
FONを警戒する電気通信事業者は多かったと思うが,最近はFONに対する彼らの見方が変わったきたということか。
最近は事業者とたくさんのミーティングを持っているが,見方は変わってきたと思う。
FONのビジネスモデルは,もちろん今でもかなり過激なアイデアかもしれないが,その一方で現実に即した考え方であることが理解されてきたと思う。
日本市場をどう見ているか。FONのビジネスを進める上で,他の国と比べて違ったところがあるか。
日本は個人であればFONの活動に簡単に賛同してくれる。ただ会社として賛同を得るのは少し難しい。今のところ,伊藤忠商事やデジタルガレージ,エキサイトなどがFONの株主になってくれたので,そういう意味では少しずつ会社と個人の両方から賛同してもらえるようになった。
ただ将来的には,やはりBTのような強力なテレコム会社とかISP(インターネット接続事業者)と提携したい。そうなれば,もっと早く成長できる。
今の日本は,固定網のインターネットがとても発達していて,Blu-ray並みの高画質のデジタル映像をストリーミング配信できるくらいになっている。となると,次に皆さんが望むのは,やはりワイヤレスで固定網と同じ品質の動画が見たいとか,写真が見たいといったことだろう。高品質のワイヤレスを提供するのがFONの目標だ。
FONルーターを第三者に開放している利用者は,無料でFONネットワークを使える。改めてビジネスモデルが知りたい。
収益源としては,まずLa Foneraの販売がある。それからエイリアンからの支払いと広告収入がある。また,ユーザーはFONにサインアップするときに,そのまま支払いをするか,あるいは30秒のコマーシャル(CM)を見るか,という選択ができる。CMを見れば無料でWi-Fiを使える。このCMも我々の収益源の一つだ。
我々と競合する企業としては,商用のホットスポット事業者がある。ただ,グローバルに見ると今のところ競合はいない。
>>後編
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(聞き手は,林 哲史=日経コミュニケーション編集長,取材日:2007年10月9日)