【後編】802.11nなど新技術への対応進める

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FONが設立されてまだ2年に満たないが,世界中でユーザーを獲得できている。その理由は?

 一つは多くのガジェット(一般ユーザー向けの小型電子機器)がWi-Fi付きだから。一般ユーザーにとってはWi-Fiが一番理想的で,使いやすい。例えば,「ニンテンドーDS」や「PlayStation Portable」はWi-Fiを備える。「iPhone」も2G(第2世代携帯電話)とWi-Fi。Wi-Fi経由で「YouTube」のビデオや音楽を楽しめる。つまり,Wi-Fiでインターネット接続したいというニーズは世界中にあるのだ。実際,私がFONを立ち上げたのも,私自身がパリに出かけたとき,使えるWi-Fiネットワークがなかったことがきっかけだった。

 FONはグローバルに展開したいので,ガジェットのメーカーとも直接話をしている。メーカー側にしても,例えば任天堂やソニー,米アップル,フィンランドのノキア,韓国サムスン電子といった会社はグローバルのWi-Fiソリューションを必要としているだろう。FONは世界でも最大のWi-Fiネットワーク。米国でもヨーロッパでもアジアでもWi-Fiを提供できるのは私たちだけと思っている。

 ちなみに,ノキアの端末だとSymbian用の専用接続ソフトがある。これを使えば簡単にFONに接続可能だ。

FONではWi-Fiルーターを見知らぬ第3者が使うことになる。この点を不安視する意見がある。

マーティン・バルサフスキー氏
写真:中島 正之

 BTでは,このことが非常に大きな懸念事項となっていた。というのは,英国は反テロリスト法がおそらく世界で一番厳しい国だからだ。FONはBTによってテストされたし,政府機関でもテストを受けた。その結果,安全であることを認めてもらった。

 理由は二つある。まずLa Foneraは(FONサービス向けの)パブリック用と個人用の二つのSSID(service set ID)を表示するが,パブリック用ネットワークから個人用ネットワークにアクセスする方法は一切ない。

 もう一つは,パブリック用ネットワークには匿名でアクセスできないこと。自分が誰であるかを名乗らずに接続することはできないようにしている。誰かが自分が設置したLa Foneraを使おうとしている場合,使おうとしているという事実だけではなく,その人が誰かということも分かる。

 だから,万が一犯罪に使われてしまい,警察からいろいろな質問を受けたとしても,自分ではないことを証明できる。しかも,誰がその犯罪のためにLa Foneraを使ったかということまで警察に伝えられるようになっている。

HSDPAやWiMAXなど,新しい無線ブロードバンド技術が次々と登場している。FONと競合するのでは?

 例えば日本にはイー・モバイルのHSDPAがある。これはすごくいい。ただ,こうした優れた技術を活用するガジェットは少ない。そこで私たちは,その隙間を埋めるソフトウエアを作った。「FON Macspot」というのだけれど,これをMacで動かせばMacがFONのホットスポットになる。そして,FON Macspotが動くMacにHSDPAのデバイスを装着すれば,FONとHSDPAを接続できる。次のステップはHSDPAの技術をLa Foneraに入れることだろう。HSDPAを受信してWi-Fiに変換するわけだ。

 「WiMAX Fonera」というWiMAXをWi-Fiに変換する機器のプロトタイプも出来上がっている。将来,WiMAXが普及したなら,WiMAXを搭載したLa Foneraを皆さんに提供したい。また,現在のLa FoneraはIEEE802.11gだが,来年には802.11n対応のものが完成する。通信速度はもっと速くなる。

ところで,FONはスペインの会社だが,それが世界展開する上で不利に感じたことはあるか。例えば,シリコンバレーへ移った方が良いと思ったこととかないか。

 グーグルは私たちにシリコンバレーへ来いと言っていた。どうやらグーグルは,スペインにいるエンジニアの質を心配していたようだ。しかしその懸念は,グーグルがスペインに来て調査したことで払拭された。確かにスペインには技術の面で有名な会社はそれほどないが,驚くべきプログラマはいる。FONでも彼らが働いている。

 もっともFONで働いているのはスペイン人だけではない。スペインはとても心地良い国なので,ドイツや英国など,ヨーロッパ全土から人材を集めることができる点も重要だ。

英フォン・ワイヤレス CEO
マーティン・バルサフスキー氏
1960年,アルゼンチン・ブエノスアイレス生まれ。米ニューヨーク大学卒。米コロンビア大学院で,MBAと国際関係論修士号を取得。1984年,大学在学中に最初の会社アーバン・キャピタルを設立し,以後,起業家・経営者としての活動を始める。1990年にコールバック・サービスを手がけるバイアテルを設立し,通信業界に参入した。Safe Democracy Foundationなど,非営利事業にも積極的に取り組んでいる。

(聞き手は,林 哲史=日経コミュニケーション編集長,取材日:2007年10月9日)