【後編】パートナーとエコシステム作る 「だらだら通話」を勧めたい

Skypeを企業ネットワークで活用したいと考えるネットワーク担当者は,管理面やセキュリティ面に不安を感じている。

 今のSkypeは管理できるようになっている。例えば,Windowsのレジストリに書き込めばファイル転送やチャット,自動アップグレード機能などを止められる。ポート番号を指定できるし,スーパーノード(中継機能を持つ状態)にならないようにしたり,TCPだけで通信するようにも設定できる。さらに,コンタクト・リストへの登録作業を制限して,会社の許可した相手だけと通信させるといったこともできる。WindowsのActive Directoryを導入している会社であれば,このような管理を簡単に行える。これは,他のメッセンジャーとの大きな違いだと考えている。

 セキュリティも強力。AES(advanced encryption standard)の256ビット・モードを使ってすべての通信をエンド・エンドで暗号化している。共通鍵を使っているが,鍵はセッションごとに作り直す。鍵の交換は2048ビットのPKI(public key infrastructure)を利用するので,この部分もかなりセキュアだ。

通信事業者はこれまで,あまりSkypeに好意的ではなかったように思うが,実際のところはどうなのか。

 NTTは昔,Skypeを毛嫌いしていたように感じるが,最近は大分変わってきた。今は光ファイバ普及に命を懸けているようで,光を売るための道具としてSkypeを使うくらいになっている。

 我々としても通信事業者とは仲良くしたいし,ビジネスもぶつからないと思っている。例えば,SkypeOutは非常に安定した電話サービスであるが,急いで航空券を予約したいときなどは私もSkypeOutは使わない。途中で切れたら困るからだ。

 その一方で,だらだら話したり,切れても構わない話をするときはSkypeがいい。要件を伝えるなら電話,会話をするならSkypeというところか。

 無料電話としてSkypeを使い始めた人に勧めたいのは「だらだら通話」。Skypeの魅力はつなぎっぱなしにできるところだ。FTTHを提供する電話会社の方は嫌がるかもしれないが,全体に占めるトラフィックは微々たるもの。Winnyに比べれば無視できる程度だ。

 例えば遠距離恋愛で,彼女が僕のキーボードの音を聞きながら寝るとか,朝,布団がガサガサする音が聞こえて目が覚めたとか,Skypeをつなぎっぱなしにしたままで生活すれば,そんなことができる。

 あるユーザーに聞いたが,その方は義理のお母さんが遠くに一人暮らしをされていて,年配なので心配だったからブロードバンドを引いて,Skypeのテレビ電話をずっとつけている。これによって心理的な距離を縮め,防犯的な用途にも役立っているそうだ。

3月にリリースされたSkype 3.1では,コミュニティ機能と言える「SkypeFind」が加わった。これは新機軸か。

 Skypeの今後を予測する上で,コミュニティはとても重要なキーワードだ。実は,昔はミクシィなどとのパートナーシップが面白いかなと思っていたが, Skypeにはもうすでに“マイミク”に当たるコンタクト・リストがある。だから,既存のSNS(social networking service)と組むよりは,Skype自身がSNSになっていった方がいいなと思っていた。そしたらSkype本社からSkypeFindが出てきた。

 世界で2億登録ユーザーともなると,数量的にはもう十分。ここからはコミュニティとして成熟させていこう,というフェーズに入っている。

 もちろん,状況は国によって違うので日本ではまだまだユーザーを増やさなければならない。ただ将来,日本も1000万を超えるくらいのユーザー数になれば,Skypeはメディアとしても価値が出てくるかもしれない。そうなれば広告を載せたいという人も現れるだろう。

 Skypeには,「安い電話」「無料の電話」を求めて参加してくる人が多いが,ただの安い電話だと思っている人はそのうちSkypeを使わなくなる。 Skypeを使い続けている人と止めた人を追跡調査したところ,止めた人で圧倒的に多いのはSkypeを電話だと思っている人だった。お金がないから Skypeを使うけど,本当はドコモの携帯を買いたい,ということだ。だから,入り口は無料電話でいいのだが,最後はSkypeにしかできないことを訴求しなければならない。

 コミュニティという点では,今後はSkype Videoを使った動画のコミュニティもあり得る。ただ,WebではなくSkypeの上で何かしようという考えになるだろう。

>>前編

スカイプ・テクノロジーズ 日本オフィス ジェネラル・マネージャー
岩田 真一(いわた・しんいち)氏
1972年10月10日生まれ。東京都八王子市出身。慶應義塾大学理工学部卒業後,オリンパス光学工業(当時)に入社。その後,ロータスでのAS/400版 DominoやNotesPumpの開発担当を経て,マイクロソフトMSN事業部へ。2001年にアリエル・ネットワークの設立に参加。P2Pアプリケーションの企画・設計・開発に従事。その傍らで,P2P技術についての啓発活動/コンサルティングを行う。2005年8月より現職。Skypeの日本市場開発,戦略的パートナーシップの責任者を務める。著書に,「なるほどナットク!P2Pがわかる本」(オーム社)や,「マーケティング2.0」(翔泳社刊・共著)などがある。
【スカイプ・テクノロジーズ】
設立 : 2003年8月従業員数 : 約600名
設立者 : ニクラス・センストローム氏と他1名
本社 : ルクセンブルク
研究開発拠点 : エストニア
事業概要 : 高音質のインターネット電話ソフト「Skype」を開発。現在はSkypeを中心とし,「SkypeOut」など,さまざまな関連サービスを提供中。日本オフィスは東京都港区にあり,3名のスタッフが常駐する。

(聞き手は,林 哲史=日経コミュニケーション編集長,取材日:2007年6月28日,撮影:北山 宏一)