【前編】ただの無料電話では飽きられる Skypeならではの魅力を伝える

インターネット電話ソフト「Skype」のユーザー拡大が止まらない。06年第3四半期で1億3600万の登録ユーザーだったが,07年3月の時点で1億9600万ユーザーまで増加。現時点では2億ユーザーを超えたと思われる。このSkypeの国内でのプロモーションを担当するのが岩田真一ジェネラル・マネージャー。同氏に日本でのSkypeの取り組みなどについて話を聞いた。

Skypeを利用している人は,全世界でどのくらいいるのか。また日本のSkypeユーザーはどのくらいか。

 今年3月の時点の登録ユーザー数は,全世界で1億9600万人だった。その中で日本のユーザー数は,現時点で500万人くらいだろう。まだまだ全然少ないという印象だ。

 実のところSkype社内では,600万人の登録ユーザーがいる台湾を成功事例と見なしている。台湾の人口は日本の約6分の1。これを考えると,日本のユーザーはもっと多くてもいいはずだ。

 なぜ台湾で成功したかというと,「PChome Online」というWebのポータル・サイトがSkypeを大量に配ってくれたから。彼らはYahoo!台湾に対抗するためにSkypeに賭けているような状況だったので,Skypeを使って自社のブランドを高めようとした。このようなパートナーシップを構築できたとき,Skypeは大ブレークする。

 私がSkypeに入る前のことだが,日本でも同じことをやろうとしてライブドアと提携した。その頃のライブドアはプロ野球参入で騒がれ,若者に人気のあるポータル・サイトということだったので,堀江(貴文・前ライブドア社長)さんの力で広めてくれると期待していたようだ。ただ,期待通りにはいかなかった。ライブドアにとってSkypeの事業は全体のほんの一部。Skype側もライブドアとのパートナーシップに注力しない時期があった。

 そのあともう1回ライブドアでSkypeの再ラウンチをやろうと考え,2006年1月に堀江さんとミーティングを持った。しかし,その直後に堀江さんが逮捕されてしまい,計画が狂ってしまった。

Skype本体も米イーベイに買収されたわけだが,この買収はSkypeの開発やマーケティングに影響を与えたと思うか。

 買収の影響はほとんどない。最近は子会社に文化的な影響を与えないことが買収の成功の秘訣と言われているようだ。もちろん,収益の目標が設定されたり,法務がしっかりしてきたといった変化はあるが。

Skypeユーザーの多くはSkypeの有償サービスを利用していないように思う。ビジネス・モデルは成り立っているのか。

 それは完全に成り立っている。Skypeは全体でも社員が600人くらいしかいないので,世界中の方々からちょっとずつお金をもらって,それで600人を養っているという感じだ。

 これを言うと「ただ乗り論」が出てきそうだが,ユーザーの皆さんにインターネットを引いてもらって,パソコンも買っていただく。だからSkypeにはメンテナンスするハードウエアはない。電話会社の方はインターネットというと電線が目に浮かぶのかもしれないが,ソフトウエアの人間から見るとAPI (application programming interface)や関数でしかない。

 また,バッファローやロジクールといったパートナーはSkype認定の製品を出してくれる。バッファローに聞いたが,Skypeのロゴ・マークを付けるとヘッドセットが10倍売れるという。つまり,SkypeとバッファローはWin-Winの関係。我々はこのような関係を「エコシステム」と呼んでいる。

日本は特に高速インターネットの普及が著しい。Skypeの特徴を生かせる環境になってきている。

 その通りだ。特に最近は定年と同時にブロードバンドを引いてみたという方のユーザーが増えているようだ。Skypeのイベントを開くと,団塊の世代の方がたくさんいらっしゃる。これから年金生活に入り,コストに対して敏感になっているのが理由だろう。

 せっかく導入したブロードバンドを利活用したいという側面もあるだろう。メールとWebに加えて,Skypeも使えるようになると,「ああ,ブロードバンドをひいて良かったな」ということになるのではないか。

 「社会につなぎ止めるツール」としても役立っている。定年になると人と会う機会が減る。そうした時でもSkypeのコンタクト・リストに友人のアドレスが入っていれば,いつでも気軽に連絡が取れる。Skypeは簡単にNAT(network address translator)越えができるので,接続で失敗することがない。だから口コミで広がりやすいという特徴もある。

>>後編 

スカイプ・テクノロジーズ 日本オフィス ジェネラル・マネージャー
岩田 真一(いわた・しんいち)氏
1972年10月10日生まれ。東京都八王子市出身。慶應義塾大学理工学部卒業後,オリンパス光学工業(当時)に入社。その後,ロータスでのAS/400版 DominoやNotesPumpの開発担当を経て,マイクロソフトMSN事業部へ。2001年にアリエル・ネットワークの設立に参加。P2Pアプリケーションの企画・設計・開発に従事。その傍らで,P2P技術についての啓発活動/コンサルティングを行う。2005年8月より現職。Skypeの日本市場開発,戦略的パートナーシップの責任者を務める。著書に,「なるほどナットク!P2Pがわかる本」(オーム社)や,「マーケティング2.0」(翔泳社刊・共著)などがある。
【スカイプ・テクノロジーズ】
設立 : 2003年8月従業員数 : 約600名
設立者 : ニクラス・センストローム氏と他1名
本社 : ルクセンブルク
研究開発拠点 : エストニア
事業概要 : 高音質のインターネット電話ソフト「Skype」を開発。現在はSkypeを中心とし,「SkypeOut」など,さまざまな関連サービスを提供中。日本オフィスは東京都港区にあり,3名のスタッフが常駐する。

(聞き手は,林 哲史=日経コミュニケーション編集長,取材日:2007年6月28日,撮影:北山 宏一)