世界のベンダーで,超小型の携帯電話基地局を使う「フェムトセル」システム(関連記事)の開発競争が激化している。当初は英ユビキシスや英アイピー・アクセスといったベンチャー系企業の取り組みが目立っていたが,ここにきて仏アルカテル・ルーセントやノキアシーメンスネットワークス(NSN)など,携帯電話のインフラを構築している大手ベンダーが,こぞってフェムトセル市場へ参入してきた。

 中でもNSNは,7月初頭にフェムトセルのソリューションを発表し,2008年の第3四半期に商用展開を目指すことを明らかにしている。同社のフェムトセルへの取り組みについて,日本法人の小津泰史代表取締役と,日本/韓国市場担当責任者であるマイケル・キューナー氏に話を聞いた。

(聞き手は堀越 功=日経コミュニケーション



NSNのフェムトセル・ソリューションの特徴は。


ノキアシーメンスネットワークス日本法人の小津泰史代表取締役(左)と,日本/韓国市場担当責任者であるマイケル・キューナー氏(右)
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キューナー氏 オープンなインタフェースを全面的に採用する点だ。我々は,携帯電話網と家庭などに置くフェムトセルのアクセス・ポイント(AP)の間に設置するゲートウエイ機器を用意する。ゲートウエイ機器とフェムトセルAPの間は,無線ネットワーク制御装置(RNC)と基地局を結ぶ標準インタフェースである「Iub」を採用した。

 これによって特定の機器だけではなく,幅広いベンダーのフェムトセルAPをゲートウエイ機器につなげるようにしていく。動作検証も共同で進め,通信事業者が安心して導入できる環境を整備する。

 フェムトセルの実現に向けては,エンド・ツー・エンドの携帯電話網の知識が不可欠だ。だが,現実的には携帯電話網に触れたことがないフェムトセル・ベンダーも多い。我々のような携帯電話網の構築経験が豊富なベンダーが間を取り持つことで,幅広いベンダーがフェムトセル市場に参入できる環境を作っていきたい。多くのベンダーが参入することで,初めてフェムトセル市場のイノベーションを促せると考えているからだ。

小津氏 携帯電話網を知っているベンダーこそ,フェムトセルのソリューションを率先して進めるべきだろう。フェムトセルAPは無線LAN機器のように簡単には扱えない。フェムトセルAPは,既存の基地局との間で電波干渉が生じるなど課題が多い。我々のようなネットワーク・ベンダーしかシステムを設計できないだろう。携帯電話網を知っている我々のようなベンダーが責任を持ってフェムトセル・ソリューションを完成していく必要がある。

日本における取り組みの現状を教えてほしい。

小津氏 詳しくは述べられなが,各通信事業者と技術的な情報交換を始めているところだ。積極的にフェムトセルの取り組みを進めているソフトバンク・グループに関しては,我々が携帯電話網の一部を担当していることもあり,ぜひ貢献できればと思っている。

フェムトセル市場に対する期待は。

キューナー氏 まだフェムトセルの取り組みは始まったばかりだ。NSNのフェムトセル・ソリューションは,2008年末から商用化をスタートする計画である。多くの対応製品が市場に出て行くのは,2009年以降と考えている。

 フェムトセルは既存の携帯電話のネットワークを置き換えるものではなく,新たに付加されたテクノロジーだ。うまく活用することで通信事業者は,効率的に屋内のカバレッジを広げられ,ネットワークのキャパシティも向上できる。現在は日本や韓国,欧州の事業者のニーズが先行しているが,今後は世界中の事業者にニーズが広がるだろう。そのときこそが,我々の本当のチャンスだととらえている。