「3本の矢」で利益率10%を目指す、規模の利益を得る仕組み作りが課題

「既存のサービスをつなぐサービス・インテグレーションとソフトウエアの開発・販売を強化する」。6月22日付でNTTデータの代表取締役社長に就任した山下徹氏は、こう意気込む。この2事業と従来からのSI事業を「3本の矢」に位置づけ、営業利益率10%の達成を目指す。「1兆円を超える事業規模を利益率向上に結びつける仕組みを作る」と意欲を見せる。

2007年度からの新3カ年計画で掲げた「利益率10%」を達成するために、新社長としてまず何をしますか。

 2006年度は、売上高1兆円という同年度までの中期経営計画をクリアできました。3年前に1兆円を目指すと発表したときには、投資家など誰も信じてくれませんでした。当時、経営企画部長として国内外の投資家を訪問しましたが、「お前たちにできるわけがない」などと言われたのを覚えています。

 それもそのはずです。計画を立てたころの数年間は、売上高が8000億円台半ばで横ばいでしたから。しかも当時は経済の立ち直りがまだ見えていなかった。それでも、この3年間、社員が一丸となって頑張り、目標を達成できました。

今は第3の創業期、SI主体を改める

 07年度からは、増収を目指していたこれまでの方針を利益重視に転換しています。当面の目標は、3年後に売上高営業利益率を10%の大台に乗せることです。もう少し長い目で会社の今後に目を向けると、当社はいま「第3の創業期」を迎えています。

 ちょうど40年前に、前身となる日本電信電話公社のデータ通信本部が発足したのが第1の創業期。システム開発ができる通信事業者というのが売りでした。その後、現在の会社として分社したのが約20年前。ここが第2の創業期です。以来、ネットワークに強いシステム・インテグレータを標榜してきました。

 そして今、お客様のところに伺うと、みなさま「システム作りを頼みたいのではない」と同じことをおっしゃいます。お客様が当社に求めているのは、システムによってもたらされる便益であり、サービスです。極端にいえば、お客様が望むサービスの実現手段はシステムでなくても構わない。ならば当社も、これまでのようなシステム・インテグレーション主体の会社から変わっていかなければならない。

既存サービスの統合に商機

第3の創業では、具体的にどのような分野を強化していきますか。

写真●山下 徹氏
撮影:中島 正之

 社内では「3本の矢」と言っています。1本目の矢は「サービス・インテグレーション」。既存のサービスを組み合わせて、顧客に新しい価値を提供する形態です。

 つい先日、ショッピングセンターの「ららぽーと横浜」に、uSuicavやuPA-SMOv、uiDvといった複数の決済サービスを1台の決済端末で利用できる「マルチ決済システム」を導入しました。それぞれのカード決済が個別にできるお店はこれまでもありましたが、来店客が端末に合わせてカードを選ぶか、あるいは店舗が複数の端末を持たなければならなかった。その問題を解決したマルチ決済システムは、サービス・インテグレーションの好例です。

 同種の複数サービスを統合する、異種のサービスをまとめる、本来は一連のサービスだけど途切れているのをつなげる。形はさまざまですが、お客様にはたいへん喜ばれます。システム・インテグレーションの上位レイヤに相当するサービス・インテグレーションは、これまで培ってきた力を生かせる当社の得意分野。ビジネスとして成り立たせていきたい。

残る2本の「矢」は何でしょうか。

 2本目はソフトウエア製品の開発・販売です。今まで我々は、インテグレーションの一環でソフトを開発していましたが、ソフト自体を商売にするという感覚は少なかった。今後は、自社製ERP(統合基幹業務システム)ソフト「SCAW」のようなパッケージ製品を中心に、セキュリティ分野のソフトなどを、グループを挙げて開発・販売していきたい。開発ツールなど、社内で使ってきたソフト製品でも、社外に展開できるものはあると思っています。

 3本目は、従来からのシステム・インテグレーションです。新しい2本の矢が登場したからといって、SIがなくなるわけではありません。今後も3本の矢の主役であることに変わりはありません。

「プロジェクト主義」を見直す

利益率向上に向けた最大の課題は何ですか。

 売上高が1兆円を超える規模の力を利益率に反映できていない点です。売上高が3000億円だった時代と、企業の運営方法は何ら変わっていないのが実情です。

 具体的にいえば、プロジェクト主義の弊害です。システム開発などのプロジェクト単位で、利益をきちっと確保するのを最優先に20年近く突き進んできた結果、仕事の仕方がプロジェクトごと、部門ごと、事業部ごとの個別最適に陥りました。

 例えば開発手法なら、当然ながら全社標準の手法があります。ですが、標準とは別に部門ごとのローカル・ルールが50種類以上もある。つまり、プロジェクトごとに仕事のやり方が違うのです。これは、単に仕事の効率化を阻害しているだけでなく、公共、金融、法人といった3事業の縦割りにもつながっている。人材の流動化を妨げている面もあります。

 極端な話、モノを買うのもプロジェクト単位でバラバラなんですよ。せっかく96社も関連会社や連結会社があり、購買量は増えているのに、それを購買力に生かせていない。

 そこでいま、開発方法論をもう一度全社で集約しようとしています。現場には「プロジェクトで不都合が出ても構わないから、標準化を優先しろ」と明言しています。開発プロジェクトの進捗データなども、同一基準で全プロジェクトのデータを取れるようにします。工事完了報告書なども完全に統一します。

 売上高という「量」から利益率という「質」への転換を果たすと繰り返し言っていますが、この転換の意味は、実は標準化なのです。標準化を徹底できれば、社内で人材を流動化できるし購買力も増す。仕事の効率も上がる。そうすれば利益率も上がるはずです。この3年間で、そういう仕組みを作りたいのです。

>>後編 

NTTデータ 代表取締役社長
山下 徹 (やました・とおる)氏
1971年3月、東京工業大学工学部卒。同年4月、日本電信電話公社入社。データ通信事業本部担当部長などを経て99年6月、NTTデータ取締役に就任。02年4月、取締役ビジネス開発事業本部長。03年6月、常務取締役ビジネス開発事業本部長。05年6月、代表取締役副社長執行役員。07年6月から現職。1947年10月生まれの59歳。神奈川県出身

(聞き手は,桔梗原 富夫=日経コンピュータ編集長,取材日:2007年6月19日)