利益率向上策は、ほかにもありますか。
もう1つあります。他社にシステム開発を発注する外注比率を下げたいと考えています。こう言うとパートナー会社から「ええー」と言われますが、外注率が高すぎると思っています。
外注はシステム開発のノウハウを社内に蓄積できないだけでなく、利益を社外に逃がしていることにもなります。米アクセンチュアは利益率が十数%あるなど、日米のシステム・インテグレータにおける利益率の違いを指摘されることがあります。アクセンチュアは、オフショア開発などを使うにせよ、ほとんど自前で開発をこなしているのです。
日本のIT産業の構造をみると、当社が例えばシステム開発で5%の利益を上げているとすると、当社の発注先であるシステム・インテグレータも、3~ 5%の利益を確保している。さらにその発注先であるソフトハウスも、利益を2%上げている。各社の利益を合計すると、アクセンチュアの利益率に達します。
日本は米国よりも雇用の流動性が低いので、社員を雇いすべてを100%自前でこなすのはリスクが高すぎます。ですが、開発の40~50%は内製化したい。そうすれば、内製化率が30%台前半にとどまっている現在よりも利益率は上がるはずです。
メインフレームは90年代後半ではベストな選択
社会保険庁の年金記録問題については、システム開発ベンダーとして、どう責任を感じていますか。
みなさまからのご批判は謙虚に受け止めます。お客様が困っているということは、我々の力が足りなかったから。データの名寄せ作業など、我々ができることは全力を尽くして全面的に協力します。特に、先日の日曜日のように、システム接続ができなくなり不便をおかけしたのは、大変申し訳ないと責任を感じています。
撮影:中島 正之 |
ただし、欠陥品を納入したとは思っていません。完成度の高いシステムを納めてきたと自信を持っています。メインフレームを使っているのが悪いという批判がありますが、90年代後半の稼働時期ではベストな選択だったと思っています。それを現在の技術を基に「オープン技術でできるのでは」と非難されると、多少なりフラストレーションを感じます。
データの不整合が大量に発生している点について責任はありませんか。
責任逃れをしているように思われると困るので、説明は難しいのですが、例えば、我々が銀行の勘定系システムを構築した場合、当社の社員は口座の中身には一切関知できません。企業の会計システムも多数構築していますが、当然ながら会計データの中身は分かりません。年金システムも同様です。システムの中に入っているデータに、我々は一切触れることができないのです。
ですから、申し訳ないのですが、格納されたデータが正しいかどうかについては関与できないと言わざるを得ない。もちろん、コンピュータでできる範囲の整合性はチェックしています。
社員の評価制度も改革
昨今、IT業界では技術者の士気低下が問題になっています。技術者の士気向上に向けた具体策はありますか。
技術者の士気を高めることは当社にとって極めて重要なテーマです。そう考えて、ちょうどこれから、評価制度の改革に臨むところです。先日の経営会議でようやく認められたのですが、新たに貢献主義の尺度を人事評価に加えます。「サンキュー・ポイント」みたいな仕組みです。例えばある顧客企業が、当社の法人担当営業に電子マネー・サービスを始めたいと言ってきたとします。すると、そのまま法人分野の担当者が応対するのか、それとも決済関連の専門部員を紹介するのか、社内でもめるわけです。
そうではなく、社員一人ひとりに会社の代表だと自覚してほしいのです。マインドを変えるには、会社に貢献した人をきちんと評価すべきと考えました。先ほどの例ですと、社内の他部門にお客様を紹介したら、その時点で紹介者にポイントを上げようということです。社員のマインドを変えると口で言ってもなかなか社員は分かりにくいだろうから、子供っぽいかもしれませんが、ポイントとして可視化していこうというわけです。このような小さな積み重ねが、利益率向上につながると信じています。
>>前編
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(聞き手は,桔梗原 富夫=日経コンピュータ編集長,取材日:2007年6月19日)