免許争奪戦で注目集まる2.5GHz帯高速無線ブロードバンド。総務省が5月に公表した免許方針案(関連記事)で免許付与の対象外とされた第3世代携帯電話(3G)事業者だが,「3分の1未満の出資」という条件を満たせば参入の芽は残っている。モバイルWiMAXで参入を目指す,NTTドコモ 経営企画部長の伊東則昭・取締役執行役員に免許獲得に向けた今後の方針を聞いた。

(聞き手は榊原 康=日経コミュニケーション



総務省の免許方針案を最初に見たときの印象は。

NTTドコモ 取締役執行役員 経営企画部長 伊東則昭氏
NTTドコモ 取締役執行役員
経営企画部長 伊東則昭氏
 正直,驚いた。今回のように特定の事業者の参入を排除した免許方針案はおそらく初めてではないか。

 欧米では,新しい周波数帯をオークションにかけている。オークション方式は賛否両論があるものの,基本的には公平で,良い札を入れた事業者が免許を獲得できる。金額で決めることが良いとは必ずしも思わないが,「力がある」または「やる気がある」事業者が免許を獲得できるという点では一番フェアかもしれない。

 平等な方法をとると,力のある既存事業者の存在がどうしても目立つことになり,結果として新規事業者の参入機会が減る。新規参入を促進したいという総務省の方針は理解できるが,免許申請の段階で既存事業者を排除するのはどうかと思う。既存事業者に対しても参入機会を公平に付与し,平等に審査すべきだ。

免許方針がこの案のまま確定すれば,「3分の1未満の出資」という条件を満たさなければ参入できなくなる。その場合も免許を取りにいくのか。

 参入の意欲や方針は,総務省が2006年12月に免許取得希望者を集めて開催した「BWAカンファレンス」(関連記事)の当時と変わっていない。常時接続のブロードバンド環境をリーズナブルな料金で提供し,多彩なポータブル・コミュニケーションを実現することを目指している。

 それなら既存のネットワークでも実現できると思うかもしれない。しかし,定額制を導入するとトラフィックが爆発的に増える。以前,パケ・ホーダイを導入したときも,その前後でトラフィックが15~20倍増えた。今秋にもパソコン用の定額サービス(関連記事)を投入する予定だが,慎重に実施しなければ品質がガタガタになってしまう。特に東名阪の中心部は周波数帯域がひっ迫しており,定額制の導入でネットワークがパンクするのは目に見えている。

 ユーザーに満足してもらえるレベルのサービスを提供するには,定額制向けに別のネットワークを用意するしかない。BWAカンファレンスでは「定額サービスのニーズに応えるためにベストエフォートの新たなネットワークを作る。それをモバイルWiMAXで実現したい」と説明した。

3G事業者がインフラを共同で構築する「事業者連合」のうわさが出ている。

 これはインフラを実際に構築して競争している事業者でなければ分からないが,競争している事業者同士がうまくまとまるとは思えない。例えば「こういうサービスを計画しているのでこういう機能を優先して作りたい」「このエリアは当社のユーザーが多いので最優先で構築したい」といったことが出てくる。こうした点を競争事業者間でうまく調整できるわけがない。

 しかもインフラは最低数千億円を投資し,何年もかけて作ることになる。インフラの完成までは競争しない--こんなスキームが成り立つわけがない。個人的には,「単独で設備を持つことこそが競争力」と考えている。もちろんサービスの競争もある。正確には「設備×サービス」だが,それでもまずは設備競争ありきの世界。現行の3Gがまさにそうだ。

ソフトバンクとイー・アクセスは6月21日に事業化を共同検討すると発表した(関連記事)。両社と組む可能性はないということか。

 これまで話した内容の延長線で考えると,「ない」ということになる。ただ,これは個人的な見解なので,絶対にないとは断言できない。

KDDIの小野寺正社長兼会長は「3分の1未満の出資でも事業参加は可能。主導権をとって参入したい」と述べている(関連記事)。

 3分の1未満でも筆頭株主になれる。主導権をとる方法が全くないわけではない。インターネット接続事業者やコンテンツ・プロバイダ,メーカーなど,互いに利益を共有できるプレーヤと組んで3分の1未満で出資するのはありだろう。我々にもその選択肢はある。

インターネット接続事業者も手を組む対象となり得るのか。

 今後,FMC(fixed mobile convergence)サービスが登場,普及していくことを考えると,事業面でバッティングする可能性がある。全く問題ないというわけではないが,競合の携帯電話事業者と組むよりは可能性として十分あるだろう。

MVNOで参入する可能性は。

 確かにMVNOで参入する方法はある。ただ,我々は設備×サービスが競争力の原点と考えている。設備を自社で持ちたいという意思は変わらない。

最終的に手を上げない可能性もあるのか。

 2.5GHz帯は魅力的で獲得に向けて積極的に考えている。本当は単独または過半数の出資で参入したい。3分の1未満という条件が付いたときに,我々が考えていることがはたして実現できるのか,今まさに検討しているところだ。最終的に手を上げない可能性も残っている。

 免許を獲得できなければ,3Gを高度化したSuper3Gで必死に対抗していくしかない。Super3GはモバイルWiMAXと比べて技術的に大きな差があるわけではない。OFDM(直交周波数分割多重)やMIMO(multiple-input multiple-output)を利用する点も同じだ。サービス面で差が出るとは考えにくく,モバイルWiMAXで提供されるようなサービスはSuper3Gでも提供していく。