ニフティは,FTTHを利用したインターネット接続サービスの集合住宅向けメニューの一部を値上げした。新規契約分は5月から適用している(関連記事)。大手インターネット・サービス・プロバイダ(ISP)による料金値上げは異例のことだったが,NTTコミュニケーションズも5月25日,OCNの集合住宅向けFTTHの一部メニューの値上げを発表してニフティに追随することを明らかにした(関連記事)。他のISPも同様の値上げに踏み切る可能性が高まっている。値上げの先陣を切ったニフティの木村孝担当部長に,その真意を聞いた。

(聞き手は宗像 誠之=日経コミュニケーション


集合住宅向けFTTHの一部メニューを値上げした理由を教えてほしい。

ニフティの木村孝・広報・IR室担当部長
ニフティの木村孝・広報・IR室担当部長
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 集合住宅向けFTTHのユーザーと,戸建て向けFTTHユーザーの不公平感を解消するためだ。集合住宅向けFTTHと戸建て向けFTTHを比べた場合,以前は利用機器などの仕様により最大速度に差があった。このため,料金に差を付けて集合住宅向けのメニューを安くしていた。しかし現在は,戸建て向けとの速度差はほとんどなくなってきている。

 集合住宅向けメニューの9割は,マンション構内にVDSL(very high-speed digital subscriber line)を使う「VDSLタイプ」を契約している。VDSL機器は,以前は最大50Mビット/秒のものが主流だった。しかし今は,最大100Mビット/秒対応のVDSL機器が主流になってきている。さらに,集合住宅まで引き込んでいる光ファイバの速度も大幅に改善された。以前は最大速度が100Mビット/秒だったが,今は最大1Gビット/秒に変わっている。

 この結果,集合住宅向けのメニューのユーザーからのトラフィックが急激に伸び,戸建て向けとの差がほとんどなくなってきた。ISPのコスト負担を考え,集合住宅のユーザーと戸建てのユーザーの不公平感を解消するには,値上げするしかないという結論に達した。

具体的にどういうコスト試算をしたのか。

 今回値上げしたのは,NTT東西地域会社のフレッツ部分とニフティのISP部分を一元化したメニューだ。従来の集合住宅向けと戸建て向けのISP部分のコスト内訳を話すと,戸建て向けメニューは1200円で集合住宅向けは650円だった。1ユーザー当たりの利用トラフィック量が,戸建て向けと集合住宅向けでは2倍くらい違うだろうと予測して,2004年12月に料金設定した。

 しかし先ほど話したように,VDSL機器やアクセス回線が高速化されて,集合住宅向けメニューのトラフィックは激増している。1ユーザー当たりのトラフィックでは,今や戸建て向けの90%くらいにまでなってきた。1ユーザー当たりのバックボーン帯域のコストが,両メニュー間で差がなくなってきており,もはや1200円と650円という差を付ける根拠はない。同程度のコストがかかっているのに集合住宅向けの方が安い料金では,戸建て向けユーザーに対して説明がつかない。

 今回の値上げは,バックボーンのコストが増えているからというよりも,ISP料金で差を付けていた集合住宅向けユーザーと戸建て向けユーザーの不公平な部分を是正するという理由の方が大きい。「戸建て向けの料金を値下げして,集合住宅向けに合わせて不公平感をなくせばいいのではないか」と言う人もいるかもしれないが,それはコスト上,非常に厳しい。

FTTHユーザーが伸びることで,スケール・メリットが出てコスト削減が進む余地はないのか。

 FTTHユーザーが伸びることで,帯域当たりのコストが下がっているのは事実だ。しかし,全体のトラフィック量が急増しており,そのコストはユーザー数に比例して上がっている。通信機器の技術革新など,コスト削減効果をもたらす要素も期待するほど進んでいない。その一方で,PtoPの利用や映像系サービスなどによりトラフィック量は大幅に増えている。トータルのコストは下がっていないのが実情だ。

値上げに対するユーザーの反応はどうか。

 一部のユーザーから苦情などが出ているのは確かだ。ご理解いただけるよう努力するつもりでいる。既存ユーザーの料金が実際に上がるのは7月利用分からなので,そのときにどういった問い合わせが来るのかはまだ分からない。

大手のニフティがFTTHの値上げに踏み切った影響は大きいのではないか。他のISPも追随すると考えているか。

 我々の値上げにより他のISPがどう動くかは,それぞれの戦略によるので分からない(編集注:インタビューはNTTコミュニケーションズの値上げ発表前に実施した)。しかしFTTH料金は各社でそれほど変わらず,コスト構造もほぼ同じだろう。各社とも集合住宅向けのFTTHの料金は低めに設定しており,トラフィック増でバックボーンのコストが上がっている状況では,我々と同様にコスト的に厳しいはずだ。

 FTTHユーザーのどの程度が,集合住宅向けかにもよると思う。ニフティの場合は,当初の予想以上に集合住宅ユーザーの比率が高まったことも大きかった。