欧米で人気のスマートフォン「BlackBerry」は,日本ではNTTドコモが法人向けに端末を提供している。それでは,NTTドコモが提供する端末は日本語化されるのか? iモードとの競合は? 今後の展望は? 米国で開催されたBlackBerryの専門イベント「Wireless Enterprise Symposium 2007」(WES 2007)の会場で,NTTドコモ法人ビジネス戦略部の松木彰技術戦略担当部長,モバイルデザイン推進室ビジネス開発担当の三嶋俊一郎ディレクターに話を聞いたインタビューの後編である(インタビュー前編:「BlackBerryで日本のビジネスパーソンを助けたい」)。

(聞き手は武部健一原隆



プロバイダーのメール受信にも対応し,個人単位での契約も可能になるBlackBerry Internet Service(BIS)を日本で提供する予定は。

三嶋氏 昨年9月にサービスを開始してから,2つの大きな要望があった。まず1つは完全な日本語化。そして,もう1つはなぜ個人で契約できないのかというものだった。これはあくまでコンシューマを相手にするものではなく,弁護士や公認会計士のような個人で仕事をされている方の要望。これにはかなり私たちも困った。あくまでBlackBerryはコーポレート契約でやっているが,個人名で仕事をされている方が意外に多かったのだ。こういう自営業者やSOHOの人に対してBISの提供はあるのかなと思っている。

日本語化のタイミングは。また日本語化実現で期待することは。

松木氏 今のところRIMからは6月の終わりごろにできそうだと聞いている。ただし,その後に相互接続性の確認作業が必要になるので,すぐにはリリースできない。若干の時間を要するので7月ころになりそうな感じだ。

モバイルデザイン推進室ビジネス開発担当の三嶋俊一郎ディレクター
モバイルデザイン推進室ビジネス開発担当の三嶋俊一郎ディレクター
三嶋氏 私は日本語化のタイミングが日本における本当の意味でのBlackBerryのスタートだと思っている。繰り返しになるが,これによって日本のワークスタイルを変えたいと思っている。BlackBerryにはそのポテンシャルがある。東京の外資系企業は別に英語版でなんら問題はない。ただ,これから私たちが目指すのは未開拓の法人市場。BlackBerryを単純に通信端末として売っていくつもりはない。BlackBerryを導入することによって,仕事が楽になる,早く家に帰れる,早く飲みにいける。こうしたメリットをどう市場に伝えていくか。これが私たちの使命だと思っている。真剣にビジネスをする人の必携ツールになればと思っている。

日本ではサイボウズなどのグループウエアを使っているところが多いが懸念材料にはならないか。

松木氏 確かに現在,BlackBerryに対応し,かつ日本で使えるグループウエアはExchangeとNotes/Dominoの2つだけだ。

三嶋氏 いまRIMとも話し合いを始めた段階だ。必ずしもグループウエアを使っている企業ばかりではない。アジア市場を見ると,ExchangeとNotes/Dominoの2つのグループウエアのシェアは非常に低く,半分以下だ。残りの半分の市場をどう攻めるかという議論になっており,グループウエアを使っていない企業も含めてどうアプローチしていくかという話をしている段階だ。こうしたアジア市場の特異性についても,RIMはよく理解している。

BlackBerry OSとは異なるOS上でもBlackBerryのサービスを利用できる「BBConnect」を,900シリーズや700シリーズに搭載する可能性は?

松木氏 むりやりFOMAシリーズに入れてもあまり意味がないと思う。BlackBerryはあくまでビジネスメール。親指で「拝啓貴社ますます」などと片手で入力する人はいない。それよりも,Windows MobileやSymbian OSを搭載したフルキーボード端末に入れる方が現実味がある。確かに,顧客からBBConnectで別の端末からも使いたいという要望はあり,現在は検討している段階だ。

BlackBerryのサービスはiモードとは競合しないのか。

三嶋氏 ざっくり言うと,iモードはコンシューマ,BlackBerryをはじめとするスマートフォンは企業向けとなる。

松木氏 BlackBerryはあくまでもパソコンで使うメールボックスを外に持ち出すソリューション。iモードはこれだけで完結するサービス。よくiモードを箱庭に例える人がいる。非常に安全で日本的でとてもきれいで,突然サメが出てきてガブっとやられることはない。つまり,パソコンを使ってない人にとっては最善のソリューションだ。

 ただ一方で,iモードのメールアドレスでビジネスはしない。普通の人であればiモードからビジネスのメールが送られてきたら怪しむのが当然。それに対して見積書を添付して返信することなんてまずないだろう。

RIMはカメラや音声/動画再生機能などのマルチメディア機能を強化した「BlackBerry Pearl」や「BlackBerry Curve」などコンシューマ市場を視野に入れた端末の開発に力を注いでいるが。

松木氏 日本では正直無理だろう。日本にはiモードがある。ワンセグやおサイフケータイなども搭載し,既に十分マルチメディア端末が普及している。そもそも欧米ではパソコンが普及し,日本ではパソコンが普及していなかった。欧米ではパソコンを外に持ち出す発想からBlackBerryのような端末が登場し,日本ではパソコンよりも先に携帯電話でインターネットに接続する環境をiモードが実現してしまった。つまり日本と欧米ではまったく逆の進化の過程にいる。

三嶋氏 (RIMのそういった動きは)米国では携帯電話の法人市場が頭打ちになってきたことも関係しているだろう。今後,継続的に成長していくことを考えると,コンシューマ市場に出て行かざるを得ない。

では端末のラインナップを拡充していく予定はないということか。

松木氏 PearlやCurveを日本に持ってくる考えはない。ただロードマップ上は,コンシューマモデルではない端末を日本に持ってくることはある。RIMが日本市場を魅力的に感じ,いつ日本仕様を作ってくれるか。彼らにとってのマーケットはやはり北米。北米向け,欧州向け,そしてアジア向けという順番だ。どれだけ私たちが日本市場を大きくできるかにかかっていると思う。

それはRIMにとっての日本市場のプライオリティが低いということか。

三嶋氏 それが,決して日本市場のプライオリティが低いわけではないようだ。世界第2の経済大国を虎視眈々(たんたん)と狙っているのは事実。この市場で急伸していくことについて,RIMも,私たちも検討している。少なくとも先ほど述べた日本語化は1つの起爆剤になるだろう。

WES 2007に日本から来ているのは十数人程度だ。日本では関心が薄いともとれる。BlackBerryのサードパーティを日本で増やしていくことは考えているか。

三嶋氏 いくつかの企業とは昨年9月から話をしているが,どういう形でやるかはまだこれから。まさに日本語化がされた後の話だろう。当然,BlackBerryの魅力は各社よく理解していると思う。BlackBerryのサードパーティの世界はほとんどパソコンの世界と一緒。マイクロソフトと周辺機器メーカーの関係と同じようなイメージだ。私たちがBlackBerryの市場を大きくしていけば,自然に育っていくと思っている。アプリケーション開発については,もちろんきちんとしたSDK(Software Development Kit)を配布する仕組みを作ることは大事だと思うが。

NTTドコモ法人ビジネス戦略部の松木彰技術戦略担当部長
NTTドコモ法人ビジネス戦略部の松木彰技術戦略担当部長
松木氏 1998年11月に最初のiモードの発表を行ったとき,プレス発表会に集まった記者は7人という逸話がある。あわてて記者会見を再度開いたほどだ。当時はiモード上でアプリケーション,コンテンツを開発してもらうために土下座してお願いして回っていた。そのころと比べるとBlackBerryのほうが感触はいい。BlackBerryのプラットフォームはそれだけ魅力的なのだろう。ただ,ほとんどの日本企業は,良さそうというだけで「じゃあうちがやります」といは言わない。日本語化もされていないし,市場規模がそもそも読めないからだろう。はたしてどうやってアプリケーションを開発していこうかなと検討している段階だと思う。石炭にマッチでは火は付かない。ただ火が付けば鉄をも溶かすものすごい力がある。その種火を私たちが用意していかなければならないと思っている。

では最後に。現在は,BlackBerryの使用料金に加えて,通信料金も発生する。しかも定額制プランもない。これらの料金体系について見直す予定は。

三嶋氏 世界で一番高いBlackBerry料金と言われているので,痛いほどよく分かっている。

松木氏 開始時にどれだけ利用されるか,まったく予想がつかなかった。どれだけのパケットが飛ぶのか,見当もつかなかった。それがある程度見えてきたら,定額制の導入になるだろう。

三嶋氏 既に弊社はBizホーダイ(月額5985円)も出している。タイミングはまだ分からないが,BlackBerryでもそのイメージを持ってもらえばいいのではないだろうか。