欧米で人気を博しているスマートフォン「BlackBerry」のイベント「Wireless Enterprise Symposium 2007」(WES 2007)が米フロリダ州オーランドで5月8日開幕した。主催はBlackBerryを開発するカナダのリサーチ・イン・モーション(RIM)。日本ではRIMと提携したNTTドコモが昨年9月より法人市場向けに提供開始。会場に訪れたNTTドコモ法人ビジネス戦略部の松木彰技術戦略担当部長,モバイルデザイン推進室ビジネス開発担当の三嶋俊一郎ディレクターに現地で話を聞いた。

(聞き手は武部健一原隆,オーランド発)



昨年9月に発売してからの感触は。

松木氏 着実に伸びている印象だ。スマートフォン市場は非常に面白く,最初に熱狂的に欲しいという方が買う。特にコンシューマ市場の場合,もの珍しいという人,最初に出た製品がほしいという人が飛びつく傾向がある。普通そういう製品は最初にぐっと売れて,その後に売れ行きが落ちてしまうが,BlackBerryは最初に伸びた後も,着実に増えている。最初から導入することを決めている企業も多かったようだ。

販売台数,導入企業数について教えてほしい。

NTTドコモ法人ビジネス戦略部の松木彰技術戦略担当部長
NTTドコモ法人ビジネス戦略部の松木彰技術戦略担当部長
松木氏 台数は非公開だが,数百の企業が導入済み。1つの企業が導入する台数には幅がある。1台から導入する企業もあれば,一挙に400台入れた企業もある。1台とか2台というところは,IT管理者がとりあえず使ってみたい,入れてみたいというケースであったり,どうしても社長だけが早く入れたいといっているというケースだ。

三嶋氏 数百社というのは外資系企業だけではない。日本企業もある。業種でいうと金融,サービス業,弁護士や公認会計士,コンサルティング企業など。比較的,知的生産性の高い方の利用が多い印象だ。例えば,「士」が付く職業の方は自分の時間を切り売りして稼いでいる。自分たちの時間がどれだけ価値を持っているかを分かっている人が多い。製造業の企業にも,もちろん導入していただいているが,どちらかというと企業内でもエグゼクティブ的な立場の人が中心になっている。時間に対して特にセンシティブな人たちにBlackBerryは人気が高い。

日本語化されていないBlackBerryを投入したのはなぜか。

松木氏 受信は日本語も可能だが,日本語入力システムが入っていなかった。その開発を待って提供するという選択肢もあっただろうが,そうじゃなくてすぐにでも売ってほしいというユーザーもいたし,日本にいる外国人も結構多い。メールが見られるだけでいいという人もいた。NTTドコモUSAが「ナミメール」という日本語プロセッサーのアプリケーションを作っていたので,とりあえず日本語化するまで組み合わせて使ってもらえばいいと考えた(関連記事)。

 MNP(番号ポータビリティ)が始まったのも関係がある。長期間,NTTドコモのお客さんでいてもらうためにも,できればMNPの前にBlackBerryを提供できればという考えがあった。

三嶋氏 そもそも外資系企業に営業に行くと,なんでBlackBerryがないの?と相手にしてもらえないことが多い。BlackBerry自体がブランドとなっており,ほとんどが指名買い。欧米に本社がある企業がBlackBerry以外の端末を入れようとすると,ポリシー上,本社の説得に非常に苦労すると聞いている。

BlackBerryを導入するメリットは。

三嶋氏 BlackBerryには2つの売りがある。まず,BlackBerryで時間を節約しましょう,本来ならば会社の机の上にあるデスクトップPC,ノートPCでしかできないことをどこででもできるようにしましょうという「時間の有効活用」だ。そしてそれを実現するための非常に堅い「セキュリティ」。この2つがBlackBerryの大きな特徴だ。

 米国では,BlackBerryは「productivity tool」と呼ばれている。カナダの調査会社イプソスが,北米を中心に実施したアンケート調査をもとに,普通のビジネスパーソンでBlackBerryを導入する前と後では平均で1日に約1時間節約できたというレポートをまとめている。年間で節約できる時間を考えるとすごいことだ。

 ただ,なかなか理解してもらうのは難しい。現に,iモードがあるNTTドコモでBlackBerryを始めようとした一番最初は,社内的にもかなりプレッシャーが大きかった。とにかくiモードとは違う世界なんだということを分かってくれる人が少なくて苦労した。

NTTドコモではBlackBerry以外にも,Symbian OSを搭載する「FOMA M1000」,Windows Mobileを搭載する「hTc Z」など複数のスマートフォンを手がけている。BlackBerryの位置付けを教えてほしい。

松木氏 M1000はあえて言えば,日本においてスマートフォンがどれくらい受け入れられるのかがまったく分からない状況で開発した製品。それまで日本にあったのはPocket PCに無理矢理通信機能を搭載させた,いわゆるPDA市場だけだった。こうしたなかで,第3世代(3G)携帯電話のFOMAをベースにしたスマートフォンはどれだけ受け入れられるのだろうか。それを検証するために米モトローラと組んで頑張って出したのがM1000だ。

 ユーザーからお叱りやアドバイスをいただき,学ぶことはいろいろあった。モトローラ製のM1000は性能も高く非常によかったが,OSがSymbian。Symbian OSで動くソフトウエアを作ってくれる人が世界中に何千万人もいるかというとそうではない。実際,日本でも作れる企業は数社しかおらず,アプリケーションの開発は大変だった。そして,アプリケーションを作れるパートナーがたくさんいるWindows Mobileのスマートフォンをやってみましょうということで次にhTc Zを投入した。

 そしてBlackBerryだ。ユーザーはタッチパネルを使ってオペレーションをするような人たちばかりではない。そもそも欧米で普及していたBlackBerryが3Gに対応し,日本でも欲しいという人たちがいた。こうした,メールが読めてスケジュールがシンクロできて添付ファイルのドキュメントも見られてという基本のビジネスツールが使えればいいというユーザーに対し,相互接続性を検証して提供したのがBlackBerryとなる。こうした流れは確かにある。ただ,それぞれ役割分担が違うと認識している。

企業が選択する際に製品によって向き,不向きというのはあるか。

モバイルデザイン推進室ビジネス開発担当の三嶋俊一郎ディレクター
モバイルデザイン推進室ビジネス開発担当の三嶋俊一郎ディレクター
三嶋氏 これだけは強調しておきたいが,M1000とhTc ZとBlackBerryは決定的に違う。M1000やhTc Zは買って箱を開けた瞬間に説明書を見てセットアップをしなければならない。つまり説明書を読んで操作できる人が対象だ。一方,BlackBerryは(Exchange ServerやNotes/Dominoを入れている企業であれば)Enterprise Activationというサーバーとの間で鍵を通すだけでセットアップが済む。しかも,それはEメールアドレスとパスワードを入力するだけ。サーバーからどのサービスが使えるかという情報が自動的にプッシュされてくる。そして,きわめて直感的な操作が可能なので,いちいち説明書を読まなくても使える。社内の上層部にいる年配の人でも普通に使いこなせる端末だ。

松木氏 一方,hTc Zはタッチパネルを搭載しているので,Webベースで業務をやっているユーザーには向いている。受発注を管理している,在庫を管理している,トラッキングをしているという企業はもともとWebベースのシステムが入っているので,こうした企業はBlackBerryよりもWindows Mobile搭載端末の方が向いているだろう。

三嶋氏 確かにBlackBerryはEメールとかスケジュールとか連絡先とか,基本的なビジネスツールがほとんど。ある業務に特化して使うのであれば,カスタマイズ性の高いWindows Mobileのほうが向いているだろう。アプリケーションの開発環境はWindows Mobileのほうが整っているためだ。

外資系企業だけでなく日本企業にも受け入れられるだろうか。

三嶋氏 私たちが思っている以上に日本企業のグローバル化は進んでいる。私も長い間ニューヨークにいたので分かるが,ニューヨークに駐在している日系企業の人は将来的に日本に帰って偉くなる人が多い。ニューヨークではBlackBerryを使っているのに,日本に帰ってくると普通の携帯電話を渡され,なんだこれはという話になる。海外に持っていくのにいちいちSIMをはずして別の端末に入れて持っていかないといけないのかと。

 RIMでアジア地区を担当しているジョー・カチ氏は,日本に来るたびに夜遅くまで電気が付いているオフィスを見て,「日本のビジネスパーソンを助けたい」と言っている。「何をしてるんだこんな時間まで,Eメールを打ってるのか? 僕は彼らにBlackBerryを渡して日本の長時間労働を改善したい」と言っている。私もその意見に賛成だ。BlackBerryは日本のビジネスパーソンのワークスタイルを変えられる。