Asteriskベースのサーバー・ソフト「InfiniTalk」を開発・販売するターボリナックス。NTTのIP電話サービス「ひかり電話ビジネスタイプ」への対応を業界内では早期に実現させた。同社はLinuxディストリビューション「Turbolinux」の開発も手がけており,OSとAsteriskをワンストップでサポートできるメリットをアピールしている。



写真●ターボリナックス営業本部テクニカルサービス部の小玉博和部長
写真●ターボリナックス営業本部テクニカルサービス部の小玉博和部長

昨年末から現在にかけての変化の一つに,NTTのIP電話サービス「ひかり電話」への対応がある。

 2006年12月に,IP-PBXソフトウエア製品の「InfiniTalk」(関連記事)をバージョンアップして,ひかり電話ビジネスタイプに対応させた(関連記事)。NTTのルーター「BR500」の配下につないで使う。BR500はルーターなので,InfiniTalkがひかり電話のSIPサーバーにレジスト(SIPクライアントとして登録)する形となる。Asteriskベースの製品としては,結構画期的だと思う。

 ひかり電話対応のためNTTの認証を取るのに,半年程度を要した。技術的に言うと,ひかり電話のSIPはAsteriskが持ってない機能を使う。大きなところでは,SIPのセッションタイマー(SIPセッションを定期的に更新することで,ユーザー・エージェントとプロキシの双方がSIPセッションがアクティブかどうかを判断できるようにする機能)だろう。これは当社がいちから実装していく感じだった。

 0AB~J番号を使えるひかり電話のようなサービスは,固定電話相当の品質を求められる。そのため規定が結構多い。InfiniTalk自身(の動き)だけではなく,接続相手のレガシーPBXやIP-PBXの挙動に対してどう振る舞うか,相手がずっと出なかった際には何秒でどうするかなど,いろいろある。端末に関しても結構厳しく,電話機をつなげての検証がある。数百,数千という検証項目があり,それを一つひとつクリアしないと通らないという感じだった。InfiniTalkはメディア(IP電話事業者)の0AB~J番号を使うサービスも検証を通しているが,こちらも結構大変だった。

 ひかり電話の検証を通ったことは,案件が増えるきっかけの一つになった。購入企業が,当社では対応しきれないくらいに増えてきている。去年はINS接続が多かったが,現在はひかり電話を使うケースが結構多い。

 アナログ回線やISDN回線につなぎたいと要望する企業もいるが,その数は減ってきている。ISDNにつなぐ場合は,VoIPゲートウエイを介すようにしている。InfiniTalkからVoIPゲートウエイへはSIPでつなぎ,そこから(外線側が)INSになる。アナログ電話をVoIPに変換する一般的なVoIPゲートウエイと逆の使い方になる。当社は,インフォーエスのVoIPゲートウエイを採用している。BRI(basic rate interface)のポートが3つ付いている製品で25万円だ。

導入企業の傾向は変わってきているか。

 導入企業には,システム開発をしているようなところが多い。その傾向はあまり変わっていない。例えば,一部上場のある製造業の会社に導入されているが,情報システム部門に当社の製品を使える方がいて,それで導入というケースだった。ただしInfiniTalkは,システムに詳しいわけではない一般企業にも入り始めている。パートナやメディア,当社の直販など販路はいろいろだが,これまでにおよそ200社のライセンスを出している。

 当社は,既存のPBXの置き換え需要をあまり狙っていない。追加導入か新規導入が多い。例えば,本店と支店に普通のレガシーPBX(やビジネスホン)があり,そこにVoIPゲートウエイを追加してIP化する方法は一般的だ。これだとPBXが二台必要になるが,支店に運用できる担当者がいないことがある。つまり支店を新規にオープンしたり移転するといったタイミングで,「支店にもう1台PBXを買うのもどうだろうか」というタイミングが来る。こうしたケースで,本店側にInfiniTalkを入れてレガシーPBXとつなぎ,新しい支店にはIP電話機だけを置くことで対応できる。将来的に全社導入することを視野に入れ,一部の部署で導入してみるケースもある。

 ユーザー企業がAsteriskを生かした電話アプリケーションを作るようになると面白い。あるユーザー企業は,グループウエア連携をしたいと言ってきている。「外から電話をかけてIVRを操作し,その日のスケジュールを読み上げたりスケジュールをテキスト変換してメールで携帯に送る」ような仕組みを作りたいとのことだった。簡単にできると思うので,是非やりたい。

Asteriskを使ったコール・センターのソリューションがあるようだが,InfiniTalkのコール・センター向けのニーズは。

 コール・センターにInfiniTalkがIVR(音声自動応答装置)として採用されたケースがある。このIVRはAsterisk搭載のものではなく自社開発した。InfiniTalkとは別売りで,1チャネル4万8000円だ。ソフトをインストールする必要があるが,InfiniTalkと同じサーバーにインストールすることが可能になっている。IVRは結構売れていて,一般企業も使っているようだ。IVRを使った業務システムを作りたいと言っている企業もある。ACD(自動呼分配機能)も作っている。こちらはAsteriskのものを流用しつつ,それに拡張を施した感じのものになる。

 今年はコール・センター向けにも注力したいと思っている。案件は20~30席規模のものが多い。いま,沖縄でコール・センターのシステムを手がけているサイオンコミュニケーションズという会社と契約しようとしている。WindowsベースのCTI(computer telephony integration)サーバーを手がけてきたが,それをAsteriskでやりたいということだった(インタビュー後に契約を締結した)。

InfiniTalkにつなぐ電話機として,ユーザー企業はどのようなものを選ぶ傾向があるか。

 「ラインキーを持つ」「パークボタンを割り当てられる」「ボタンで発信」などの機能を必要とする場合は,選択肢はサクサ製のIP電話機しかないと見ている。サクサから仕様を開示してもらい,InfiniTalkをそれに合わせて作り込んでいる。パーク保留などが可能だ。

 「安い方がいい」とユーザー企業の皆さんはおっしゃる。どうしても安く上げたい場合はソフトフォンを勧めている。自社製品のソフトフォンを持っているが,近くバージョンアップする(関連記事)。USBハンドセットと組み合わせると,それでソフトフォンを操作できるようになる。このソフトフォンの価格はInfiniTalkのライセンスに含まれるので,IP電話機を使う場合に比べ劇的に安くなる。

Asteriskベースのソフトウエア製品を出しているベンダーはあまりいないが,ターボリナックス製品ならではの特徴は。

 Asteriskは通話を処理するとき,内部的に「パケットを流す,排出する」といったタイミングをずっと取っている。この処理を受け持つのは,Asteriskが持つ「Zaptel」というモジュールだ。例えばレッドハットのようなLinuxのディストリビューションを作っている会社が,カーネルをバージョンアップした場合は,自分でZaptelモジュールをコンパイルし直さないといけない。しかし当社はOSベンダーであり,Zaptelを「Turbolinux 10 Server」標準のドライバとして提供している。つまりカーネルをアップデートした際にZaptelも自動的にアップデートされる。ユーザーの運用が楽になると思う。

 また何か問題や不具合が起きて原因が分からないときでも,当社は本当にローレベルの(OSの内部的な)ところまでさかのぼって調べられる。このワンストップのサポートが当社の強みだ。Asteriskベースのアプライアンス製品は「ビジネスフォンとどう違うの?」という比較になってしまうのではないか。InfiniTalkはサーバー・ソフトであるため,ハードディスクが付いたマシンにインストールする。あとからソフトウエアを追加して機能を拡張することが可能だ。通話録音や多数のボイスメールを保存したり,多量のログを記録したりできる。ここがPBXやビジネスフォンと違うところだ。

当面の目標は。

 パートナを全国津々浦々に,各県1社以上は作りたい。今年のうちに50社獲得することが目標だ。結構小さな,地域に密着しユーザー企業をサポートしてもらえて,技術力がある企業を探している。今年中の達成を目標にしている。既に公表済みのパートナ(ニッセイコムやフォアネットなど)もある。メディアも営業だけではなく,設置作業を請け負うと聞いている。ほかに,名前の知られているインテグレータと交渉中だ。