読んで楽しくなる科学予測本

 最初に紹介するのは「2100年の科学ライフ」。著者は「超弦理論」の創始者の1人として有名な物理学者、ミチオ・カク氏。正確な科学や技術の知識を駆使し、2100年後の世界を予測した書である。予測の対象は、コンピュータ、人工知能、医療、ナノテクノロジー、エネルギー、宇宙旅行、富、人類文明と多岐にわたる。

 すべての予測が興味深いが、ICTに関連して特に面白く読めたのが「インターネットコンタクトレンズ」だ。今、ゴーグルタイプのネット端末が話題を呼んでいるが、見かけがカッコ悪く煩わしいので、はやらないと予測する人もいる。しかし21世紀の半ばには、コンピュータの全機能がコンタクトレンズに収まると予測する。

 そこにも、科学者らしい裏付けがある。カク氏は、量子物理学者の知識をもって、シリコン時代の終焉しゅうえんを予言する。トランジスタが小さくなりすぎて、原子数個分の厚さにまでなると、量子論が幅を利かせるようになり、正しく動作しなくなるというのだ。しかし、彼の想像力はそこで止まらず、ポストシリコン時代にも何らかの代替技術を見いだし、以前より遅いペースだがコンピュータの性能は向上していくとして、予測を進めるのだ。

 ややもすると未来予測は暗くなりがちだが、明るい未来を描き出しており、読むと希望が湧いてくる。ぜひお薦めしたい。

2100年の科学ライフ


2100年の科学ライフ
ミチオ・カク 著
斉藤 隆央 訳
NHK出版発行
2730円(税込)


■関連する記事を読む
  • 2100年の科学ライフ (日経コンピュータ,2013年1月15日)

「自然任せの崩壊」を未然に防ぐ

 2つめに紹介するのは「2052」。原著が発行された2012年(日本語訳は2013年に発行)から40年後、2052年の世界がどうなっているのか、未来図を推測した書だ。本書の著者は、2012年の40年前、1972年に発行された「成長の限界」の著者の一人。今回の「2052」はその続編とも呼べる。

 「成長の限界」では、シミュレーションを駆使して12の異なるシナリオを分析した。その結果は、「管理された衰退」か「自然任せの崩壊」のどちらかという厳しいものだった。当時の反響は大きかったが、結局そのメッセージは広まらなかったという。そこで本書では、単なるシナリオ分析ではなく、様々な知識を駆使した予測を提示している。必ずしも明るい予測ではないが、現在我々が置かれた状況を把握するのに役立つだろう。

2052 今後40年のグローバル予測


2052
ヨルゲン・ランダース 著
日経BP社発行
2310円(税込)


■関連する記事を読む