一連のリコール問題に揺れた三菱自動車。2014年3月期の復配に向け苦闘が続く。2013年8月には、成長に向けた切り札と期待するプラグインハイブリッド車(PHV)の「アウトランダーPHEV」の生産再開にこぎ着けた。このPHVと先に発売した電気自動車(EV)の「アイ・ミーブ」はITの塊でもある。益子修社長に成長戦略とそれを支えるIT戦略について聞いた。

(聞き手は木村 岳史=日経コンピュータ 編集委員)

益子 修(ますこ・おさむ)
1972年3月に早稲田大学政治経済学部を卒業、同年4月に三菱商事に入社。88年4月に自動車第二部 輸出第一チームリーダー、95年10月に自動車第五部 部長代行、2002年4月に自動車第一ユニット ユニットマネージャー、2003年4月に執行役員自動車事業本部長。04年6月に三菱自動車の代表取締役常務取締役 海外事業統括に就任。05年1月より現職。1949年2月生まれの64歳。(写真:陶山 勉)

リコールで販売を停止していたプラグインハイブリッド車(PHV)の生産を再開しましたが、あの車は御社の成長戦略の要だと聞いています。

 我々の成長戦略の柱となるのは、「新興国」と「環境対応技術」の2点です。環境対応技術は先進国の市場を攻めるために必要なのですが、大きな台数を売っていくうえでは、電気自動車(EV)よりはPHVのほうがはるかに可能性があると思っています。

 我々は2009年にEVを発売しましたが、EVには三つの課題があります。価格、航続距離、充電インフラです。

 このPHVなら通常のEV走行に加えて、エンジンで発電しながらEV走行することも可能ですので、航続距離の問題を解決できますし、充電インフラが整っていないこともそれほど大きな問題ではありません。価格もガソリンエンジン車などと比べて大きな差はありません。今後、戦略的にPHVを先進国中心に売っていきます。

EVの課題は発売前から分かっていたことだと思いますが、御社の車も含めてEVは予想よりも販売が伸びていません。

 いくつか理由があると思っています。まず一つは、大きな市場になると予想していた欧州で、EVを出した頃から景気が急激に落ち込みました。円高も一気に進んで、特にユーロ建てで非常に高くなってしまいました。

 東日本大震災の影響もありました。急速充電器の普及を目指す「チャデモ協議会」などで、東京電力の果たした役割は非常に大きいと思いますが、電力会社が本業以外のことでイニシアチブを取りにくくなりました。原発事故が起こりましたので、CO2削減への取り組みは話題にもできないようになってしまったわけです。

 ただここに来て、多くのメーカーがEVを発売しています。決して市場から拒否されたわけではありません。課題を克服すれば十分に戦えると思います。