富士フイルムホールディングスと米ゼロックスの合弁会社である富士ゼロックス。設立当初からサービス志向の強い同社は最近、複写機・複合機の販売からITを活用したソリューションやサービスに事業領域を急拡大している。IT分野にどこまで踏み込むのか。グローバル展開を図るうえでゼロックスとの役割分担をどうするのか。山本忠人社長に事業戦略を聞いた。

(聞き手は木村 岳史=日経コンピュータ 編集委員)

山本 忠人(やまもと・ただひと)
1968年3月に山梨大学工学部卒業、同年4月に富士ゼロックスに入社。94年1月に取締役 VIP事業部長。96年1月に常務取締役 開発部門担当。98年7月に常務取締役 兼 鈴鹿富士ゼロックス代表取締役社長。99年3月に常務執行役員。2002年6月に代表取締役 専務執行役員に就任。04年7月に取締役 専務執行役員。06年6月に代表取締役 専務執行役員。2007年6月より代表取締役社長 兼 富士フイルムホールディングス取締役。1945年10月生まれの67歳。(写真:陶山 勉)

IT分野での事業展開にも力を入れていますが、どのような事業戦略なのですか。

 我々は「富士ゼロックス=複写機、プリンター」というイメージから脱却し、「ドキュメントサービス&コミュニケーション」のジャンルで事業を拡大したいと考えています。ですから、複写機などのデバイスも従来通り取り組みつつ、新たな事業ジャンルをいかにスピーディーに開拓していくかが経営課題だと捉えています。

 ITは企業の業務プロセス、ワークフローの全てを網羅していません。ITで管理する情報の多くは構造化データです。それに対して、アナログ的な情報はITの世界とは別のものとして管理されており、しかもその情報をベースにした業務プロセスが歴然と存在します。例えば保険の加入手続きでは、申込書や契約書などは紙でしょう。それに官公庁や自治体の業務も紙ベースです。

 我々の調査では、ITが管理する構造化されたデータは企業内に15%しかありません。あとは非構造化文書。企業では紙の文書などを主に使って意思決定しているわけです。我々としては、こうしたアナログ的なプロセスをITの世界に乗せていくことに、自らの強みを見いだせると考えています。

中小にはITもワンストップで

IT関連事業にはどこまで踏み込むのですか。

 大手の顧客はしっかりしたIT部門がありますし、取引のあるITベンダーもいます。従って、我々はITベンダーと連携してソリューションを提供していきます。ただIT導入が進んでいない中小の顧客には、ITも含めてワンストップで提供することを目指しています。

 もちろん我々はITベンダーではありませんから、タブレットやサーバーといったデファクトスタンダードの製品を開発する意図はありません。ドキュメント管理のための自社のハードやソフトを、デファクトスタンダードの製品と組み合わせて提供していきます。

複写機や複合機で競合する他社も、同様の事業戦略を採っています。どこで差異化するのですか。

 我々は広範なサービスを提供できます。例えばプロダクション機(デジタル印刷機)の顧客向けのプロダクションサービスでは、マーケットコミュニケーションに関わる様々なサービスを用意しています。例えば保険業や旅行業の顧客なら、プロダクション機でダイレクトメールを作成する際、どういう内容にすればリピート率が上がるかといったコンサルテーションなどを提供しています。

 また、文書ベースのコミュニケーションに関わる業務の全てをグローバルで請け負うアウトソーシングも手がけています。グローバルサービスと呼んでいますが、複合機などオフィスのプリンティング環境の運用管理を丸ごと請け負う、いわゆるMPS(マネージド・プリント・サービス)もメニューの一つです。競合他社も手がけていますが、我々がグローバルでシェアナンバーワンです。

そう言えば、50年前の設立時からレンタルサービスを事業の柱にするなど、御社は一貫してサービス志向が強いですね。

 その通りです。我々は当初から機器を売るのではなくて、サービスを提供するというスタンスでした。ですから、当時から顧客に使い方をトレーニングし、機器の保守を行い、消耗品を提供するといった七つのサービス業務があって、それらを担う人たちを「七人の侍」と称していました。