見えない電波を“見える化”し、消費者が正しい選択ができる環境を整備する一つの指標として、「人口カバー率」がある。しかしこの表記は携帯電話キャリアによってまちまちであり、消費者がどのキャリアがつながりやすいかを判断することは事実上不可能な状況である。

複雑化する周波数利用状況

 携帯電話キャリアは、カタログやIR資料などに通信規格(W-CDMA、LTEなど)ごとの「人口カバー率」の現状値や計画値を記載している。そもそも、「比較審査方式」で周波数免許が交付される日本では、免許付与方針の中に「5年以内に人口カバー率xx%以上」といった条件が付されており、キャリアは免許付与条件を上回るペースでネットワークを整備してきた。

 しかし第3世代携帯電話(3G)以降、モバイルブロードバンドの利用が増大したことで、携帯電話で使われる周波数帯域が一気に逼迫することになった。そのため、アナログテレビに利用していた周波数帯をデジタル化によって集約し、余った周波数帯を携帯電話に割り当てるといった「周波数の再編」が進められている。

 こうした経緯から、同じ通信規格に対応する端末でも、異なる周波数帯を使ったり、複数の周波数帯(マルチバンド)を使いわけたりと、対応する周波数帯に違いがあるようになった(図1)。特にグローバル仕様のスマートフォンでは、国ごとに利用する周波数帯域が異なるため、マルチバンドへの対応が当たり前となっている。

図1●KDDIのマルチバンドの例 出所)KDDIの2013年6月10日プレスリリース http://www.kddi.com/corporate/news_release/2013/0610a/pdf/sanko.pdf

 当初、LTE対応のAndroid端末向けに800MHz帯のエリア整備を進めていたKDDIは、米Appleの「iPhone5」が800MHz帯ではなく、2.1GHz帯を使用することを知らされてから、2.1GHz帯のエリア整備を突貫で進めることになった。その焦りも、第1回で説明した「誤表記」につながった一つの要因ではないかと推察する。

 また、LTEで採用しているOFDMという変調方式では、通信に使える周波数の帯域幅に比例して速度が速くなる。従って同じ通信規格で同じ周波数帯域を使っていても、使える帯域幅が5MHz幅なのか、20MHz幅なのかによって、最大速度は4倍も異なってくる。

 このように、スマートフォン時代の周波数の利用状況は大変複雑化しており、一般ユーザーには容易に理解できない状況になってきている。