ネットの「フリー」の代価は何か

 新しいメディアがもたらす問題を議論する研究資料には、必ずソクラテスが登場するという。「書き言葉は怠け者を作る」という言葉を残し、問答形式で言葉の吟味や内容の分析をしなくなるからという。紀元前から、インターネットの普及で知識が退化することが指摘されていたというわけだ。

 著者は古代ギリシャの贈与交換の論理を基に、クリス・アンダーソン著『フリー〈無料〉からお金を生みだす新戦略』(日本放送出版協会)に反論。ネットの「無料」とは、実は自らの行動履歴をビッグデータとして提供する構造を、自覚せずに返礼していると指摘する。ネット詐欺と古代の詐欺師の手法は変わらない。人間の脳の認識力も変わらない。ビッグデータに億単位の投資が喧伝されるご時世だけに、注目される指摘ではある。

ソクラテスはネットの「無料」に抗議する


ソクラテスはネットの「無料」に抗議する
ルディー 和子 著
日本経済新聞出版社発行
893円(税込)