ASEAN市場で日系企業はいかに闘うべきか---。高成長市場でビジネスを拡大しようと、日本のIT企業は次々とASEANに進出している。ただし進出先では、グローバルIT企業や現地IT企業との激しい競争が待ち構えている。コンサルティングとITサービスの両面でASEANを攻める野村総合研究所(NRI)。2013年4月から営業を開始する「野村総合研究所タイ」の水野兼悟社長、ASEAN向けサービスで中心的役割を担う「ノムラ・リサーチ・インスティテュート・ホンコン」の澤井啓義社長、アジア戦略企画を担当するNRIの堀田耕治アジア事業開発部長に勝算を聞いた。

(聞き手は岡部 一詩=日経コンピュータ

2013年4月にタイのバンコクで現地法人の営業を開始する。

野村総合研究所タイ社長 水野兼悟氏
野村総合研究所タイ社長 水野兼悟氏
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水野:本来はもっと早くバンコクに進出すべきだったと考えている。ただしギリギリではあるが、今後10年間のASEANでのビジネスを考えた場合、最後のタイミングには間に合ったと考えている。

 というのも、2015年にはASEAN経済共同体が設立される予定だからだ。関税の自由化などが進めば、域内の「ヒト・モノ・カネ」の流れが変わる。バンコクは地理的にも経済的にも、ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマーの中心地。加えて、今後著しい変化が見込まれるミャンマーの状況を常に見られる。そうした地域に拠点を設けていない状況は、当社としては致命的だ。

 逆算すると遅くとも2012~2013年には拠点を構え、2015年までに基盤を作っておく必要があった。出遅れた分、加速的に取り組みを進めていくつもりだ。

なぜ出遅れてしまったのか。

堀田:当社の国内向けITサービスは7割が金融向け。残り3割が製造業や官公庁向けだ。海外進出の際もまず香港やシンガポールといった金融業が盛んな地域に先行して進出したという経緯がある。

ASEANには日本のIT企業が次々と進出している。

野村総合研究所 アジア事業開発部長 堀田耕治氏
野村総合研究所 アジア事業開発部長 堀田耕治氏
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水野:市場としての魅力が高まっているからだろう。人口で言えば中国は13億人、インドは12億人なのに対してASEANは9億人を抱えており、遜色のないレベルだ。

 個人的には多様性も魅力の一つだと考える。中国やインドは一つの国。中国のように反日運動が盛り上がり、突然モノが売れなくなるというリスクがある。

 一方、ASEANは国ごとに宗教も政治体制も異なる。難しさはあるが、比較的安定した市場と捉えることができる。日本との付き合いも古い。例えば日系企業がタイに大量進出したのは1985年以降だ。30年近くの付き合いの中で、お互いの仕事の進め方をよく知っている。

澤井:当社のIT事業のアジア進出は、最初の10年間は中国が中心だった。ところが、だんだんとビジネスがやりにくくなってきたと感じる。規制や税制は我々ではコントロールできないし、賃金上昇も歯止めをきかせることは不可能だ。

 競争も激化している。中国市場は圧倒的に大きいので、とにかく競争が激しい。IT企業にしても、海外に出るとなるとまずは上海を目指す。人件費が上がっている中、儲かっている企業は限定的ではないか。

 その点、ASEANは一つひとつの国の規模は小さいが、“面”でカバーすることができればボリュームがでてくる。いち早くその体制を築けた企業が有利だ。