データサイエンティストという職業をご存じだろうか。ビジネス知識や統計学を駆使して、多種多様かつ大量なビッグデータから活用の切り口を見いだす最先端の人材である。米ハーバード・ビジネスレビュー誌などが「21世紀で最も魅力的(セクシー)な職業」と紹介している。

 ビッグデータの活用を本格的に進めようとする企業であれば、データサイエンティストをはじめとするデータの目利きが必要不可欠だ。データが大量にあっても、“スモールデータ”さえ分析できなければ宝の持ち腐れである。

 データサイエンティストに相当する人材は、日本では1000人にも満たないという。1万人以上いるとされる米国に大きく後れを取っている。米国では、FacebookやGoogleなどのIT企業をはじめとして、金融業や流通業といった多くの企業がデータサイエンティストの部隊を持っており、日々競争力の強化を図っている。

 官公庁などが「オープンデータ」として様々な情報を公開し始めているが、こうした状態では日本の相対的な競争力を押し下げる可能性がある。オープンデータの海外事例に詳しいオープン・ナレッジ・ファウンデーション日本グループの東富彦氏(国際社会経済研究所)は「日本の機関がデータを“開国”したら、欧米勢がそれを活用してさらに競争力をつけてくるのは目に見えている」と指摘する(関連記事:広がる「オープンデータ」活用、行政の開示姿勢やプライバシーに課題も)。

写真1●統計数理研究所の樋口知之所長
写真1●統計数理研究所の樋口知之所長
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 なぜこのような状況になったのか。

 ビッグデータの分析・活用に詳しい統計数理研究所の樋口知之所長(写真1)は「日本は大学に統計学科がないため、人材の裾野が広がっていない」と指摘する。「統計学科の設置が一般的な米国に比べて、日本は何周も遅れている」という。米国の大学では、統計とデータ分析の専門教育を受けた学生が数多く輩出される。「そうした人材がシリコンバレーなどの企業にインターンで働き、就職する流れができている」(樋口所長)。

 いまから大学にデータサイエンティストを育成するような統計学科や専門学科を設置しても、米国のような流れができるまで少なくとも2~3年はかかるだろう。まずは企業の現場レベルで打開策を探る必要がある。