2012年のネットマーケティング業界で議論となった問題の1つが、ネット上の「口コミ」と「広告」の線引きだ。スポンサーから報酬を受けた業者による評価サイトへの投稿や、一部芸能人のブログ記事などをはじめとして、様々な口コミに見せかけた広告が消費者の間に警戒感を生じさせた。

 日本の消費者庁はこの問題に対して同年5月、口コミサイトのいわゆる「サクラ記事」などを景品表示法違反で取り締まる姿勢を表明(発表資料)。しかし、同年12月にもペニーオークション(関連記事)の宣伝に一部の芸能人ブログが一役買っていたことが判明するなど、口コミと広告の線引き問題は今もくすぶり続ける。

 こうした問題は海外ではどのように議論されているのかを探るうえで、ウオッチしたい米業界団体が、WOMMA(The Word of Mouth Marketing Association=口コミマーケティング協会)だ。そのWOMMAが2012年11月12~14日に開催した「WOMMAサミット2012」の模様を、ルグラン代表取締役の泉浩人氏がリポートする。(ITpro編集部)

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写真1●2012年11月、「WOMMAサミット2012」の会場となった米国ラスベガスの高級ホテルWynn
写真1●2012年11月、「WOMMAサミット2012」の会場となった米国ラスベガスの高級ホテルWynn
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 米国のWOMMA(Word of Month Marketing Association=口コミマーケティング協会)が主催する「WOMMAサミット2012」は、2012年11月12~14日の3日間にわたり、ラスベガスで開催された。

 会場となったホテルWynnは、ラスベガスの中でも1-2位を争う高級ホテルということで(写真1、写真2)、さぞかし派手なイベントなのだろうと思って行ってみると、実際には、「トレードショウ」というよりも「勉強会」的な色彩が濃いイベントであった。

 それもそのはず、主催者であるWOMMAは、口コミマーケティングという手法が正しく活用されることを目的に設立されたNPO(非営利組織)であり、現在は、350以上の企業や団体が加盟している。

写真2●会場となったホテルの内装
写真2●会場となったホテルの内装
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 メンバーの顔ぶれは、ブランドや代理店、ツールベンダーなどと多彩だ。WOMMAが開催するイベントは基本的に、マーケターがクチコミマーケティングに関する倫理や行動規範を学ぶ場、と位置付けられている。

 ちなみにWOMMAが設立されたのは2004年。これはフェイスブックが産声をあげたのと同じ年であり、Twitterが誕生するのは、その2年後である。そして、WOMMAサミット、2005年に初めて開催されてから今年が8年目となる。

WOMMAの6つの掟

 サミット初日は、WOMMAの倫理委員会のメンバーによる「倫理規定」に関するセッションから始まった(写真3)。

 WOMMAでは、この倫理規定の中で、口コミマーケティングの実施にあたり、以下に掲げる「6つの掟」を設け、会員企業に対しても、その順守を求めている。

  1. 信頼の醸成
  2. 法令の順守
  3. 消費者利益の優先
  4. 透明性の確保
  5. 責任ある言動
  6. プライバシーの尊重
写真3●WOMMA倫理規定に関するセッションの案内板
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 ここに列挙されている項目自体は、特に目新しいものではない。だがこうしたWOMMAの倫理規定を、規制当局(FTC: 米連邦取引委員会)が2009年に制定し発表した、いわゆる「ステマ規制」のガイドラインに、WOMMA自ら働きかけて取り入れさせることに成功している。これは注目すべき点だ。

 ちなみに日本でも日本のWOMマーケティング協議会(WOM Japan)や、JIAA(インターネット広告推進協議会)といった団体が、口コミマーケティングや行動ターゲティング広告に関するガイドラインを策定している。だが、「お上」の意向を受けて自団体のガイドラインを制定・修正していくのではなく、自分達の活動に不利益となり得る法令や規制が設けられないよう、ガイドラインの策定段階から逆にFTCに働きかけたのは、いかにも米国らしい動き方と言えるだろう。