ビジネスブレイン太田昭和
会計システム研究所 所長
中澤 進

 前回(日本経済へのIFRSの影響を分析した「オックスフォード・レポート」を読む(上))に続いて、IFRS(国際会計基準)導入に関する金融庁の今後の動向に影響を与えるとみられる「オックスフォード・レポート『日本の経済社会に対するIFRSの影響に関する調査研究(The Impact of IFRS on Wider Stakeholders of Socio-Economy in Japan)』」を取り上げる。報告書は、金融庁のWebサイトから無料で入手できる。

 前回はこの報告書を作成したトモ・スズキ氏によるセミナーの内容と併せて、報告書の特徴を説明した。今回は報告書の内容について見ていくことにしたい。

「まとめと政策提言」のポイント

 前回も触れたように、報告書は本論部分が217ページに及ぶ大作である。報告書の膨大な内容を要約するのは、必ずしも適切ではないと考える。ここでは、スズキ氏が言うところの「ピックアップ問題」が生じる可能性があることを承知の上で、第6節「まとめと政策提言」に関して、筆者から見たポイントを紹介する。

 第6節では、「国内総括」「国際対応総括」「論理的、倫理的に脆弱なレトリックの終焉」「課題」「静かな革命」「積極的な政策と外交」という6点を述べている。報告書からの引用部分はカギカッコで示す(一部、送り仮名を入れるなどの修正をした)。

1. 国内総括

 報告書では「日本の会計制度は国際的にも遜色なく投資家のために十分資する会計制度として確立されている。この甲斐あって財務諸表の透明性や比較可能性の向上という課題は、もはや日本における最優先課題ではなくなっている」と述べている。このため、性急なアドプション(強制適用)は不要であるとしている。

 「日本の会計制度は国際的にも遜色なく」とする根拠の一つは、日本の会計基準(日本基準)に対するIFRSとの同等性評価だと思われる。IFRSの設定主体であるIASB(国際会計基準審議会)と日本の会計基準(日本基準)の設定主体であるASBJ(企業会計基準委員会)が東京合意で決定したコンバージェンス(収斂)内容については、2011年6月におおむね達成し、IASBの了承も得ており、同等性評価を得ていると見てよいだろう。

 報告書では問題点として、「(IFRSが)任意ないしは強制適用される場合の四半期制度、内部統制、監査や会社法・金融商品取引法など国内制度との連携をいかに図るか」を挙げる。この部分は筆者も全く同感である。報告書ではこれらの文脈から、連単分離は欧州の事例を併せ見ても当然の流れであるとの意見を述べている。